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JRIレビュー Vol.4,No.88

地方公務員は足りているか―地方自治体の人手不足の現状把握と課題

2021年04月15日 蜂屋勝弘


近年、地方自治体の人手不足が表面化するケースがみられる。本稿ではまず、地方自治体の人手不足感が、いつ頃からどのような理由で高まってきたのかについて、これまでの地方の行財政運営と地方公務員の業務量の推移を整理し分析する。そのうえで、将来の人口減少下における地方自治体の人手不足の行方について検討し、今後の対応の在り方を考察する。

地方公務員数は2010年代前半以降ほぼ横ばいで推移し、足許では微かに増えているものの、2000年代には大幅に削減されてきた。2000年代における地方公務員削減の主な目的は、地方財政の健全化であり、その主な手段として、①地方自治体が直接担う業務範囲の縮小と、②ICT導入による業務効率の改善が行われてきた。

2000年代に地方公務員数は減少したものの、「地方公務員一人当たり実質歳出額」と「時間外勤務手当の給与月額に対する比率」は、横ばいから減少気味で推移しており、地方公務員一人当たりの業務量の増加は、①地方歳出の削減、②業務範囲の縮小、③業務効率の改善によって回避されていたとみられる。これに対し、2000年代末以降は、両指標がいずれも増加傾向にあり、地方自治体の担う業務量が社会保障分野を中心に次第に多くなってきている可能性が窺われる。

地方自治体の人手不足の将来を展望すると、地方公務員の“必要数”と“なり手”はともに減少するものの、“必要数”の減少ペースが“なり手”の減少ペースよりも緩やかなことから、人手不足は拡大するとみられる。この傾向は、人口の少ない地方自治体でより顕著である。「なり手÷必要数」で計算した「充足率」をみると、2045年の大規模自治体が8割程度であるのに対し、小規模自治体では6〜7割程度まで低下する。

また、部門別にみると、民生、衛生、土木では、地方公務員の必要数の減少ペースが他の部門に比べて小幅にとどまるため、人手不足がより深刻になる可能性がある。これは、①高齢化に伴って社会保障分野や保健分野での行政ニーズが高まること、②人口減少下においても道路などの住民の生活に欠かせない社会資本の維持管理が引き続き求められるためである。

今後、生産年齢人口の減少を受けて地方公務員のなり手が少なくなるなかで、必要な行政サービスをどう維持するかが課題になる。そうした事態に備え、①地方自治体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)の一段の推進、②共同・広域での行政サービスの提供の拡大、③専門人材の育成、④業務範囲の見直しが求められる。自治体DXや業務範囲の見直しを地方公務員減少につながるものとしてネガティブにとらえるのではなく、必要な行政サービスを守るための手段として、前向きにとらえることが重要である。
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