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コロナ禍に対応する観光業のビジネスモデル転換

2021年04月05日 野尻剛


 新型コロナウイルスが世界的に広まってからはや1年が経ちますが、感染拡大は続いており、わが国においても2度目の緊急事態宣言が行われました。ワクチンへの期待感は高まっているものの、具体的な終息時期の見通しは、依然として立っていません。
 こうしたコロナ禍に対応する企業の経営戦略として、2020年8月19日付のコラム「ウィズコロナのポートフォリオ戦略」では、事業ポートフォリオ戦略や人材ポートフォリオ戦略の重要性、今後の方向性について提言しました。
 今回のコラムでは、特にコロナ禍の影響を大きく受けている観光業が、上記のポートフォリオ戦略を踏まえながら、どのように対応していくべきかについて考察します。

●マイクロツーリズムだけでは観光業は救えない

 昨年初めての緊急事態宣言が発令された際、都道府県をまたぐ移動について自粛を求められたことから、マイクロツーリズム、つまり地元や1~2時間程度の近郊からの短距離旅行が、観光業を救う鍵になると言われていました。言葉としての新鮮味はありますが、もともと観光業には地域性があります。例えば、関東に住む人と関西に住む人とでは、なじみのある旅行先は異なります。
 また、マイクロツーリズムが成立する大前提は、近郊に人口の多い都市が存在することです。首都圏の場合、箱根が典型的な該当例です。一方で、沖縄の観光業を沖縄県内の需要だけで支えることは不可能です。つまり、マイクロツーリズムが成立しない観光地もたくさんあるということです。
 観光業にとって、地元や近郊のお客様を大切にすることは重要なことですが、それだけではビジネスとしては不十分です。旅行者にとっても、短距離の近郊旅行だけでは飽きてしまうのが本音ではないでしょうか。やはり広域からお客様に来てもらうことが、観光業本来のあるべき姿と言えます。

●感染症リスクを「時間」と「属性」で考える

 旅行者の「移動距離」が短いマイクロツーリズムを強化することで、感染症リスクを低減させるのも考えの一つですが、私は「移動距離」ではなく、「時間」と「属性」によって、感染症リスクを低減すべきと考えます。

①1泊2日と2泊3日の旅行ではどちらが感染症リスクは高いか
 例えば20部屋ある旅館が、1カ月30日を満室にしようとする場合、全てのお客様が1泊2日の滞在であれば600組が必要です。一方、もし全てのお客様が2泊3日であれば、半分の300組だけで済みます。
 より多くの人が利用すれば、それだけ感染リスクは高まります。300組の方が、600組よりも感染リスクを低いのは明らかです。つまり、「時間」で言えば、より長く滞在してもらえるビジネスモデルに転換していくことが、事業成立と感染リスク低減とのバランスから望ましいと言えます。

②団体旅行と家族旅行ではどちらが感染リスクは高いか
 旅行の形態には様々なものがありますが、「属性」として大きく分けると個人旅行と団体旅行とに分けられます。この2つを比較すると、普段は接触しない人達が集まるバスツアーのような団体旅行の方が、感染リスクは高まります。
 また、個人旅行であっても、友人同士の旅行は普段接触する機会が少ないですから、家族旅行に比べれば感染リスクは高いと言えます。他方、さらに近年注目されている「お一人様」に至っては、感染リスクは極めて低いと言えるでしょう。

●観光地という「面」でビジネスモデルを改革していく
 
 「家族」や「お一人様」に「長期間」の滞在をしてもらうことが重要なわけですが、その中ではおそらく「長期間」滞在してもらうことが、宿泊施設にとってハードルが高いと感じられると思います。
 沖縄などのリゾートホテルを除けば、1泊2日が宿泊施設にとっても、旅行者にとっても標準パターンとなっており、そもそも明確な連泊プランを販売していない場合がほとんどです。連泊してもらうには、それだけの「魅力」が必要ですが、急に魅力を高めるのは、個々の宿泊施設での対応だけでは限界があります。

 そこで重要になるのが、観光地という「面」で対応していくことです。つまり、個々の宿泊施設という「点」だけで対応しようとするとハード的な制約や資金的な制約から難しくなりますが、その観光地ならではの体験を具体的な連泊プランへと落とし込む「面」での連携がポイントになります。
 やってみたいけど家族やお一人様では、他のお客様に迷惑をかけるのではないか、一人ではそもそも受け入れてくれないのではないかと旅行者が躊躇してしまうことは少なくありません。例えば、船釣りを個人で手配しようとすると、初心者ならどこに頼めばよいのか、釣り道具はどうするのか、釣った魚を食べたいけれど旅行先のどこで食べれば良いのか等、迷ってしまうことは多々あります。これらを初心者でも安心な体験プランとして提案することは宿泊の魅力を高めることにつながります。他にも、乗馬、陶芸、ライン下り、熱気球、昆虫採取などいろいろな体験プランが、その地域、地域で考えられるはずです。これらはすでに「点」としては存在しており、それらをつないで「面」として旅行者に提案することが重要です。

●宿泊代金のスリム化

 連泊をすれば、旅行者にとってはそれだけコストがかさみますので、宿泊代金をいかにしてスリム化するかも重要な考察ポイントになります。例えば食事です。旅館の豪華な夕食・朝食も、2日、3日と続けば飽きてしまったり、カロリーが気になってきたりなど、弊害が出てきます。そこで、滞在中の1日だけを夕食付にして、残りは夕食なしや、標準的な食事よりも簡素化したものを提供するなどの対応が考えられます。
 また、朝食についても体験プランとセットにしたお弁当の提供、朝寝坊したい人向けに近隣の飲食店で利用できる昼食チケットに振替可能などの対応が考えられます。こうした食事に対する選択肢を複数用意し、柔軟な宿泊プランを組めるようにすることが、コスト面からの連泊のハードルを下げる取り組みとして重要です。

●GoToトラベルは何がまずかったのか

 最後に観光業ならではの話題として、GoToトラベルについても触れたいと思います。GoToトラベルは昨年の夏休みから始まったものの、感染拡大要因としてやり玉に挙げられるようになり、現在(2021年3月末時点)は事業停止中です。

①エビデンスを示せなかった
 批判当初は、GoToトラベルと感染拡大を結び付ける直接的なエビデンスはないとしていましたが、逆に感染拡大にはつながっていないエビデンスを示すこともできず、世論に押される形で事業停止となりました。GoToトラベルの問題点の一つは、このエビデンスを示せなかったことにあります。
 旅館に宿泊すると、後日お礼状が届くことがあります。このお礼状の取り組みを、宿泊後の感染状況確認の取り組みへと進化させ、観光での感染リスクが決して高くはないことをエビデンスとしてアピールすべきであったと思います。例えば、宿泊後2週間経過した時点で、往復はがきによって宿泊のお礼と、その後の感染状況の質問を行えば、相当数の返信は見込めたはずです。往復はがきの直接的なコストはせいぜい100円程度です。そのコストを惜しんだことによる逸失利益は、その何十倍にも及ぶと考えられます。

②繁忙期も閑散期も一律の扱いであった
 年間で言えばGW、お盆休み、年末年始などが繁忙期で、週間で言えば週末が繁忙期です。これらの繁忙期は何も補助がなくても旅行者は多いので、観光業への支援、また感染拡大防止のため密を避けるという観点からも、閑散期に重点を当てた補助をすべきであったと思います。
 また、先の「時間」や「属性」に注目して、連泊プランや家族旅行への補助を手厚くするといった対応も検討されるべきでした。

③ビジネスモデル転換にはつながらない補助金
 GoToトラベルに限らず、飲食店への時短協力金などもそうですが、収益補填のためのばらまき的要素が強く、先に示したようなビジネスモデル転換につながる支援制度とはなっていません。
 より本質的には、コロナ禍によって大きく変貌した市場構造にどう対応していくかを支援すべきであり、従来の事業構造、ビジネスモデルのまま維持することは、単なる延命措置であり、本質的な解決は望めません。
 例えば、今までは団体旅行や海外からのインバウンド需要で支えられていた観光業者であれば、家族やお一人様をターゲットにするために必要な設備投資などに充てられる資金を援助していくべきです。そうした支援制度も融資という形で一部ありますが、GoToトラベルの事業規模に比べれば小さなものにすぎません。上記②に示したGoToトラベルの見直しにより予算を捻出し、ビジネスモデル転換のための支援をするよう切り替えていくことの方が、観光業を救う本来的な意義は大きいと考えます。
以 上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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