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リサーチ・レポート No.2020-040

イングランド銀行の量的引き締め(QT)への取り組み-コロナ禍で決定的になった金融政策の“新常態”の方向性

2021年03月30日 河村小百合


2008 年の世界金融危機を機に、金融政策運営の大幅な変貌を迫られた主要中央銀行は、さらに2020 年春以降のコロナ危機を受け、未曽有の規模にまでバランス・シート(以下BS)を拡大することを余儀なくされ、今後の金融政策運営に、さらなる重い課題を抱えることになった。

本稿では、ベイリー総裁のリーダーシップのもと、ポスト・コロナの金融政策の“新常態”はいかにあるべきかについて、主要中銀の先陣を切って検討を進めるイングランド銀行(BOE)に焦点を当て、①BS の規模の正常化(換言すれば、中央銀行としての政策運営の持続可能性の確保)の必要性、および②今後の循環的な景気変動への対応の必要性、という2つの「必要性」をいかに両立させる形での金融政策運営を検討しているのかを明らかにし、わが国への示唆を検討する。

BOE ではかねてから、米連邦準備制度(Fed)とは異なる考え方に基づき、危機後の金融政策運営のの取り組み方針が策定されていた。BOE の場合は、資産買い入れの対象の殆どは長期・超長期の英国債であったため、当初から資産削減の手段は国債の“中途売却”によらざるを得ないことが当然の前提として想定されていた。また、正常化に相当する資産売却のプロセスはBOE では「量的引き締め」(QT:Quantitative Tightening)と呼称される。

BOE の資産削減に着手するタイミングとしては、政策金利が経済を加速させず減速させもしない“中立金利”水準に到達する時点が強く意識されてきた。具体的には、2015 年11 月時点では、「バンク・レートが2%に到達した時点」とされ、2018年6 月にはその金利水準が「1.5%」に引き下げられていた。

BOE は2018 年夏以降、どこまで自らのBS(ないしは資産)を削減するかの検討にも着手した。市場関係者との協議も踏まえ、「準備の選好される最低レンジ」(PMRR)の水準の推計値は合計で1,500~2,500 億ポンド、それを基に算出されるBOE の「BS の安定水準」は、2,750~3,750 億ポンド、名目GDP 比で12~18%となることも明らかにした。BS 政策を実施した主要中銀のなかで、規模の縮小のめどの水準を明らかにしたのはBOE が初めてで、大きな意義があると考えられる。

コロナ危機のさなかの2020 年3 月に就任したベイリーBOE 新総裁は、間断なくコロナ危機後を見据えた金融政策運営の在り方の検討に着手した。同年8 月のジャクソンホール・シンポジウムでのスピーチ等を通じ、今次コロナ危機におけるQE の効果を認め、①今後の危機の際にも同様の政策運営が可能になるように、BSの調整(資産削減)を進めておく必要があること、②QE やQT は、今後は景気の循環的な変動への対応策の一環としても用いられる可能性があること、そのためには③BOE の従来の資産削減の方針を見直す余地があることを明らかにしている。

ベイリー総裁のこうした方針を受け、BOE のMPC(金融政策委員会)では、2021年2 月の会合で、将来的に必要になるであろう金融引き締めの適切な戦略に関する従前のガイダンスを見直すための作業に、BOE のスタッフが着手するよう要請したことが明らかにされており、今後の帰趨が注目される。

一方、BOE 内部の独立評価局(IEO)は2021 年1 月13 日、『BOE のQE に対するアプローチに対するIEO の評価』と題する報告書を公表した。IEO はそのなかでBOE の執行部に対し、MPC で議論の対象として取り上げるべき点、社会一般とのコミュニケーションの取り方など、きわめて多岐にわたる勧告を行っている。とりわけ注目されるのは、今次コロナ危機を受け将来的に一段と膨張することが不可避とみられるBOE の損失を改めて試算し直すように求めている点であり、BOEの執行部側もこの勧告を受け、2021 年中に新たな試算を公表することとしている。

翻ってわが国の状況をみると、日銀は、去る3 月19 日の金融政策決定会合後に、「金融政策の点検」の結果を公表したものの、その内容は主として、コロナ禍で大幅に加速させていた資産買い入れのペースを落とす方向性を示すものにとどまり、「出口戦略」に関する具体的な認識については、今回も一切触れられることはなかった。金融政策は、国民全体の今後長期にわたる経済活動に大きな影響を及ぼす経済政策である。日銀もBOE の取り組み姿勢を見習い、将来に向けて責任ある金融政策運営に舵を切っていくことが求められている。
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