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ビューポイント No.2020-027

コロナ危機で露呈したわが国雇用安全網の欠陥ーアクティベーション型セーフティーネットの強化を

2021年03月22日 山田久


コロナ危機下のわが国の失業率は当初想定されたほど上昇していないが、統計に表れていない厳しさがある。今回大きな打撃を受けた飲食・宿泊業には、学生アルバイトや配偶者のいる女性パートが少なくない。そうした人々の中には、感染リスクを避けて仕事を探さなかった人々が多く、失業者として顕在化していない。しかし、妻のパート収入が生活費の相当部分を占める家計が増加し、親の仕送りなく自活を余儀なくされている学生も増えている。さらに、統計上は就業者であっても、就業時間や日数が大幅に減少した人々が多く発生しているのが今回雇用危機の特徴である。いわゆる「シフト制」で働く労働者のうち、休業や営業時間短縮で、雇用契約は維持されていても実際に働ける時間が大幅に減少し、収入が激減している人々である。

コロナショックを受けた政府の対応は、大胆かつ迅速であった。雇用調整助成金の特例措置を矢継ぎ早に拡充し、「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」も創設した。これらの制度が、コロナ禍で苦境に陥った労働者を救済していることは確かであるが、その過程でわが国のセーフティーネットが不十分な点が明らかになった。申請事務の煩雑さやデジタル化の遅れで雇用調整助成金の支給が遅れ、「シフト制」労働者への支援金の創出・拡充が行われるも、その有効性は不透明である。そもそもパート・アルバイトについている人々は、非世帯主でその収入は家計補助的な者との想定で、失職したり仕事が減ったときの所得補償の仕組みは整備されてこなかった。しかし、近年、非正規労働者のうちで世帯主や単身で暮らす人が増え、非正規労働者に対する所得補償の仕組みを、臨時措置ではなく恒常的な制度として整える必要性が強まっている。

雇用調整助成金の拡充など政府が講じている施策は、パンデミックという不確実性の高いショックへの一時的・緊急的措置としては妥当なものである。しかし、元来、雇用調整助成金は産業構造の転換を妨げるものとして批判されてきたし、休業支援金もあくまで所得減への受身的な対応である。コロナ危機が1 年を経過して明らかになってきたのは、打撃が特定産業に集中していることであり、人員過剰分野と人手不足分野が併存していることである。この点からすれば、その間の労働移動を進める施策が求められている。労働移動を進める施策は、積極的労働市場政策として北欧を中心に欧州諸国では展開されてきたが、わが国ではその必要性を指摘されながらも、これまで十分な展開が無く、改めてその必要性が再認識された形である。

デジタル変革の波が押し寄せ、さらにはコロナ禍で世界的な環境保全の気運が固まり、ゼロ・エミッションに向けたエネルギーシステムの変革に伴う産業の大革新も求められている。そうした状況に備え、アフター・コロナを見据え、事業変革・産業再編を円滑に進めるための、スキル転換や労働移動を促進する政策の重要性が高まっている。この点で、早くから積極的労働市場政策を導入し試行錯誤を繰り返して進化させてきた、スウェーデンの経験に学ぶべきところが多くある。具体的には、わが国の雇用セーフティーネットの再構築の方向性として、①アクティベーション・プログラム(職業訓練・コーチング・就業体験等)の拡充・多様化と、その参加を前提にした雇用保険非対象者に対する生活支援給付の制度化、②雇用保険対象の拡大と部分失業保険の仕組みの創設、③官民連携の集中的再就職支援システムの創出、④産官学・公労使の密接な連携の下での、企業ニーズにマッチした実践的職業訓練の仕組みの創設、の4 点が指摘できる。

コロナ危機で露呈した雇用セーフティーネットの欠陥を本格的に整備するには一定の時間がかかる。しかし、事業構造転換・産業構造転換は極力早く手を付ける必要があり、その意味で、足元で進む「人材シェア」という取り組みに注目すべきである。今後、異業種での企業統合や産業再編が進むことが予想されるなか、失業なき労働移動に資する可能性もある。政府もその普及に向けて協議会の設置や助成金の創設に取り組み始めている。今後はさらに、各企業の求人情報のデータベースの構築を進めていくとともに、助成金を一定の要件で転職時にも適用し、失業を経由しない形での日本型の労働移動の仕組みづくりにつなげていくべきであろう。
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