2021年03月22日
各位
株式会社三井住友フィナンシャルグループ
株式会社日本総合研究所
日本電気株式会社
量子アニーリングの業務活用に向けた共同研究
~機械学習の精度向上とストレステスト業務の効率化~
株式会社三井住友フィナンシャルグループ(執行役社長グループCEO:太田 純、同社グループを総称して「SMBCグループ」)、株式会社日本総合研究所(代表取締役社長: 谷崎 勝教、以下「日本総研」)および日本電気株式会社(代表取締役 執行役員社長 兼 CEO: 新野 隆、以下「NEC」)は、量子コンピュータの技術評価・検証および研究成果に基づく情報発信を共同で実施してまいりました。
1.量子アニーリング活用への期待
量子コンピュータに関しては、様々な方式のハードウェアやアルゴリズムの研究・開発が進展しており、ビジネス利用に向けた実証実験も活発に行われている状況です(注1)。中でも、主に組み合わせ最適化問題を解くために特化した量子コンピュータの実現方式である量子アニーリング方式は、技術的な実用化の目途が立ちつつあることもあり、金融をはじめ、製造・交通・化学など多くの産業における解析業務で、これまで膨大な変動要素のために解けなかった問題に対処できるようになる等、大きなインパクトをもたらすことが期待されています。
2.本検証の成果概要
三井住友フィナンシャルグループ・日本総研、NECは、2020年2月から共同で量子アニーリングの実用性検証(以下「本検証」)を行っています。機械学習や組合せ最適問題への応用に関する成果として、以下を確認しました。

3.今後の取組
今回の技術的成果については、関連する学会・研究会への発表を行い、量子ソフトウェア開発の発展にも貢献していく予定です。
引き続き、機械学習への応用や金融資産の価格変動リスク予測等、量子コンピュータの業務活用に直結する重要性が高いテーマに取り組み、量子ソフトウェア開発と検証を通じて、更なるお客さまへのサービスの向上を目指します。
(ご参考:検証成果の詳細)
①機械学習に必要となる学習データの品質向上
金融取引における正常/不正を識別するAIモデルを構築する際には、正常に取引が行われた学習データ(以下「負例データ」)と、不正が行われた学習データ(以下「正例データ」)が必要です。
しかし、不正の事例は実際にはほとんど存在しないことから、正例データは少量しか取得できません。そこで、この問題への対処法の一種として、機械学習のフローの前工程「データ取得」において、実際の正例データを基に「実在しないが確からしい」正例データを大量に生成する操作(オーバーサンプリング)を行うことがあります。(図1)
本検証では、量子アニーリングは規則性のない数値を生み出せるという特性を活用することで統計的に確からしい正例データ生成器を開発(注2)し、これを用いてオーバーサンプリングを行いました。加えて、不正取引を識別するAIモデル(主にデータの分類に用いられる決定木と呼ばれるモデル)の学習に、オーバーサンプリングしたデータを適用した結果、従来手法(「ランダム」および「SMOTE」)と比較して再現率(注3)の向上に寄与することも確認しました(図2)。
【検証概要】
実施期間 :2020年9月~12月
検証環境 :D-Wave Systems Inc.の量子コンピュータ等
利用データ:海外クレジットカード会社の実際の取引履歴から作られた公表データ
検証内容 :学習データを使って不正取引を識別するAIモデルを構築し、オーバーサンプリングの手法
による有用性を評価
オーバーサンプリングの各手法:
・量子アニーリングを用いた手法
正例データをボルツマン分布と呼ばれる確率分布で再現する手法。ボルツマン分布は
確からしいデータを生成するために利用される。今回、正例データの生成時に量子
アニーリングを適用している。
・ランダム(従来手法)
複数存在する正例データからいくつかの正例データをランダムに選び、それらをそのま
ま複製する形で新たなデータを生成し、正例データに加える手法
・SMOTE(Synthetic Minority Over-sampling TEchnique)(従来手法)
複数存在する正例データから類似した正例データを2件選び、それらの中間的な特徴を
持つ新たなデータを生成し、正例データに加える手法
結果 :不正取引の再現率を比較した結果、同一のAIモデルであっても学習データの品質相違
から、本手法を用いた再現率がランダムより6~15%、SMOTEより3~6%程度向上
することを確認。

②ストレステストのシナリオ策定における経済指標の調整
SMBCグループの業務戦略策定に際しては、重要なリスクを織り込んだシナリオに基づいてストレステストを行い、資本の健全性を検証しています。
このシナリオに含まれる経済指標は数理モデルを活用したソフトウェアによって推計しますが、専門家等の人的判断による推定も勘案しています。そのため、推定した一部の指標とその他の関連指標が整合的になるように手作業で調整を行う必要があり、従来はこの作業に多くの時間が費やされていました。
本検証では、この調整を最適化問題として定式化し、量子アニーリングの手法を用いて解くことで、調整作業を効率化しました。その結果、実務で使用可能な精度の解を得るために必要な時間が、従来の方法に比べて約6分の1に短縮されることを確認しました。

(注1)
【IT動向リサーチ】量子コンピュータの概説と動向
株式会社日本総合研究所 先端技術ラボ発行
https://www.jri.co.jp/page.jsp?id=36731
(注2)
本手法を構成する技術の一部について、現在特許出願中
(注3)
検出できた不正取引の割合。
例えば、再現率が50%から55%に向上すると、100件の不正利用のうち50件を検知できていたAIモデルが55件検知できるようになる。
(参考)
NEC 量子コンピューティングへの取り組みについて
https://jpn.nec.com/quantum_annealing/index.html