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日本総研ニュースレター 2020年11月号

社会システムでこそ生きるダイナミック・エナジー・データ

2020年11月01日 瀧口信一郎


ダイナミック・エナジー・データは稼働状況を映す鏡
 新型コロナウイルス感染症の拡大によって、年初には想像もしなかったオンラインでの働き方が既に多くの職場で浸透し、そのまま常態化しつつある。
 デジタル化が進む社会のなかで存在感を高めているのが、電気や熱の消費量を表すダイナミック・エナジー・データである。人や設備が動けばエネルギーを消費する現代社会では、それらの活動状況をそのまま反映するダイナミック・エナジー・データが、活動に隠された異常や稼働の問題点を見いだすために欠かせなくなった。また、工場やオフィス、家庭など対象を選ばず、国内・海外を含め場所についても制限なく、共通するエネルギー尺度によって測定・比較することができる。ダイナミック・エナジー・データはどこにでも存在し、さらに工場やオフィスには省エネに関連して膨大な既存データの蓄積があることから、活用もしやすい。
 スマホの位置情報を利用すれば都心の人出の増減が捉えられることが知られるようになったが、ダイナミック・エナジー・データを使えば、人々の活動の内容についても把握が可能となる。ダイナミック・エナジー・データは人々の活動の結果でもあるため、その連続かつ切れ目ないデータによって、飲食店、小売店舗、事務所など施設ごとの稼働有無、稼働水準、稼働時間が明らかにできるからである。

エネルギー安定化で省エネや生産プロセス改善を実現
 工場で電力使用量や温度変化などのダイナミック・エナジー・データを観察していると、通常は安定しているがまれに変動が起きる。この変動は、生産に何らかの問題が生じていることを示すサインと考えることができる。つまり、ダイナミック・エナジー・データをつぶさに見ながら、エネルギーの使用量を安定化させる改善ができれば、設備稼働も安定させられることになる。設備稼働が安定すれば、省エネのほか、人為ミスや材料のロスの減少、そして目に見えないところで劣化していた品質改善などが実現できると考えられる。このことは日本総研でも実証実験を実施しており、収益性の向上に貢献することを確認している。
 この考え方は、サステナブルな社会や企業活動を支えるデータ基盤にも拡張できる。ダイナミック・エナジー・データは、省エネや再生可能エネルギーというエネルギーのグリーン化を評価できるのはもちろん、オペレーションの柔軟性や強靭性などリスク対応力の評価にも活用できるからである。また、労働時間など労働状況を把握し、適正な労働環境が確保されているかの評価にも貢献が可能である。さらに、企業が年1回集計し申告するデータを基に評価する現在のサステナブルファイナンスのあり方は、連続かつ切れ目ないダイナミック・エナジー・データを基に評価するものへと進化するであろう。この連続かつ切れ目ないデータを通じ、工場と本社、サプライチェーンの企業間、企業と金融機関の間に新たな関係性や価値が生み出されるはずである。

サステナブルな社会システムとの連携を推進すべき
 サステナブルな社会システムを支えるデータ基盤にも、ダイナミック・エナジー・データを応用できる。例えば交通をはじめ各種インフラと連携させれば、エネルギーのグリーン化や災害時の地域自律運用も可能となるであろう。
 また、住宅街などの地域エリアで太陽光発電を導入する場合、日中の発電を夜間に蓄えることで、ダイナミック・エナジー・データの変動を安定させることが課題となる。そこで、コストの高い蓄電池の役割を、稼働率の低い電気自動車に担わせることが解決策として有効である。
 街に散らばっている太陽光発電の稼働状況や、電気自動車の走行状況をダイナミック・エナジー・データから正確に把握し、様々に組み合わせながらダイナミック・エナジー・データの安定化を図ることで、再生可能エネルギーに付きまとう変動性の問題を解決するのである。
 ダイナミック・エナジー・データの安定化を通じて、EVの稼働率を高める仕組みを作ることができれば、自治体の災害対応のほか、介護タクシーなどの活用や法人・個人のカーシェアの普及が進み、地域交通の利便性が高まることが期待できる。
 ダイナミック・エナジー・データを使って人の作業効率や設備の稼働率を向上させる手法は、今後も開発が続くと予想される。社会システムを改善するこのデータの用途は一層広がりそうである。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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