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JRIレビュー Vol.4,No.88

コロナ禍における米英の金融面での危機対応とわが国の課題ー政府・中銀の役割分担の在り方と出口局面への移行の進展

2021年03月16日 河村小百合


新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、わが国を含む世界各国は、経済・社会活動の両面で深刻な打撃を受けている。わが国と同様、米英両国においても、企業金融支援等の危機対応策が中央銀行も関与する形で強化されている。本稿ではこの両国において政府と中央銀行との間でいかなる形で役割分担が行われているのか、2020年秋以降は収束に向けてどのような政策運営が行われているのかを明らかにしつつ、わが国の課題を考えたい。

アメリカでは連邦準備制度(Fed)が2020年3月以降、連邦準備法の緊急事態条項を発動する形で、銀行以外の金融機関や企業等も対象とする様々な資金供給ファシリティを導入している。その過半はリーマン・ショック時にはなかった新規のもので、そのほとんどには連邦財務省による信用補完が行われており、危機対応によってFedの財務を過度に傷めることがないよう一定の配慮がなされている。なお、危機が峠を越えつつあることを映じ、2020年末〜2021年初にかけて、幾つかのファシリティはすでに終了している。

イギリスにおいては元来、イングランド銀行(BOE)は金融政策の「手段の独立性」のみを有し、透明性を確保しつつ政府と協調する形での政策運営が行われている。今回の危機下で国債等の買い入れを再拡大するのに際しても、リーマン・ショック時と同様、将来的な正常化に伴うコストは全額英財務省が負担するという損失補償(indemnity)の考え方が明示されている。また危機対応としての企業の資金繰り支援プログラム(CCFF)に関しても、BOEはあくまで政府の代理人としてオペレーションを担当し、損失はすべて財務省が負担する。同国では、BOEが通常の政策運営を通じて得る利益の配分や政府による損失の負担のルールも明確に定められている。CCFFは予定通り、設置から1年経過後の2021年3月で終了させることが決まっている。

わが国においても2020年3月以降、日銀が企業の資金繰り支援策等を次々と打ち出し、5月の臨時の金融政策決定会合で決定された分まで合わせれば総額75兆円規模の「新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム」が用意された。これらは、日銀が直接的(社債やCP等の買い入れ)ないしは間接的(民間銀行等経由)に企業等の信用リスクを負担するものであるが、米英のような政府による信用補完や損失補填等の取り決めはみられない。

今回の危機は、日銀が過去7年間あまりにわたって展開してきた金融政策運営上の実務上の限界もあらわにした。2020年3月の株価の急落を受け、買い入れてきたETF(信託財産指数連動型上場投資信託)にもし同年3月半ばの株安水準が会計上適用されていれば、少なくとも2兆〜3兆円規模の評価損が発生し、引当金を積む必要が生じていた可能性もある。さらに今後、今回の危機対応のためのコストが上乗せされる可能性があることに加え、金利引き上げ局面に入ることを余儀なくされれば、当座預金への付利負担が嵩み、日銀の財務状況はさらに悪化する可能性が高い。

日銀は中央銀行ゆえ、会計上の損失を拡大させながら金融政策や業務運営を継続することも不可能ではない。しかしながら、そうした状態を放置することは、米英両国にみられるような、中央銀行の財務面での健全性の維持を尊重するという、国際金融界で共有されている考え方と相容れるものではない。そうした状況がさらに悪化し、長引けば、国際金融界におけるわが国の信用、ひいては通貨円の信認が危うくなるという事態も絵空事ではない。

わが国として、今後も安定的な経済・財政運営を継続するためには、こうした事態は何としても回避しなければならない。そのためには、「円の信認」を維持するうえで不可欠な、経済の潜在成長力を強化するための構造改革を断行することを大前提として、①コロナ危機の収束のための対策は、東日本大震災時の対応も参考に、現世代がコストを負担する形で行い、実効性のある財政再建に努めること、②危機収束後には速やかに、日銀は新たな資産の買い入れを止め、資産規模縮小に着手すること、③政府は日銀への資本注入の枠組みの検討に着手することが求められる。
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