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JRIレビュー Vol.5,No.89

観光レジリエンスの向上に向けてー新型コロナウイルス感染症を機に求められる新しいアプローチ

2021年03月16日 高坂晶子


新型コロナウイルス感染症により、多くの観光地・事業者は甚大なダメージを受けている。平和産業といわれる観光業は、もともと自然災害や経済危機、国際紛争等のイベントリスクに弱く、今回のコロナ禍はその脆弱性を端的に表した形である。とはいえ、人々の観光意欲は消滅しておらず、コロナが収束に向かうにつれ観光業が再興する可能性は大きい。

観光立国を目指すわが国は、成長戦略の柱として、また地方創生の切り札として観光を重視している。本格的な観光の再興まで数年を要する可能性もあり、観光地・事業者はその時を見据えて経営の存続を図ることが極めて重要である。困難に直面しても立ち直る能力、あるいは持ちこたえる打たれ強さ、すなわち観光レジリエンスが必要とされるゆえんである。

コロナが観光に与えた具体的ダメージは、観光マインドの減退、需要の消滅、稼働の休停止に大別される。事業者はこれらのダメージに対し、以下に示す取り組みで対応している。
 観光マインドの減退には、これまで以上に情報を提供するなど、顧客との関係強化を図っている。安全安心対策を強化して顧客の不安や不都合を解消する一方、オンラインプロモーション等で顧客との接点を維持・強化している。
 観光需要の消滅には、本業を補う収益源を開拓して経営の下支えを図っている。コロナ禍は、自然災害に比べ観光資源や設備の物理的ダメージが小さいため、短期間で新事業の展開が可能なことに活路を見出す戦略である。 稼働の休停止には、保有資源のシェアを通じた新たな使途と顧客の創出で対応している。資源利用の新手法であるシェアを導入し、遊休スペースや従業員のマネタイズを図っている。

しかし、上記のコロナ対応だけでは、観光レジリエンスの向上に必要な取り組みを網羅しているとはいえない。今後、さらに取り組みが必要な分野としては、インバウンド、コト消費、高齢者への対応が挙げられる。インバウンドに関しては、観光客の送り出し国を一層多様化することが必要であり、コト消費に関しては、接近を避けつつイベントその他の体験を楽しむことができる仕組みを提供することが重要である。加えて、コロナ禍をきっかけに高齢者の観光意欲の減退が顕著であり、これまで以上にシニア層の観光需要を喚起する取り組みが必要となる。

ただし、イベントリスクの影響範囲はしばしば経験値を超えるため、事前に想定したレジリエンス向上メニューだけでなく、リスク対応の基礎体力を高めることも必要である。具体的には観光客や住民、地域の経済主体等との関係を強化し、連携してリスク対応する仕組みの構築が望ましい。

レジリエンスを高めて観光を再興するに当たり、単純に従来への回帰を目指すことは、コロナ禍以前から顕在化していた問題、例えば特定送り出し国への依存やオーバーツーリズムを繰り返すことになりかねない。コロナがもたらした変化を直視し、地域社会全体で新たな観光の在り方を検討することが重要である。
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