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ビューポイント No.2020-026

国際比較で見た所得格差の状況ーアメリカの特殊性と日本の課題

2021年03月05日 牧田健


アメリカでは所得格差が著しく拡大しているが、所得格差拡大を促す金融緩和やグローバル化・デジタル化はすべての先進国に共通しており、アメリカ以外の先進国でも、程度の差こそあれ、所得格差は拡大している。

もっとも、アメリカは他の先進国と異なる特性がある。第1に、富裕層向けの最高税率を筆頭に所得税率が低い。第2に、相続税も低く、格差の固定化を招いている。第3に、低所得者層に対する財政支援措置が乏しい。第4に、最低賃金が低い。第5に、労働組合組織率が低く、賃上げ圧力が弱い。第6に、教育費・医療費が著しく高く、子供への「貧困の連鎖」、格差の固定化を招いている。こうした特殊性に鑑みれば、他の先進国においては、アメリカにみられるような社会の「分断」を招くほどの所得格差拡大は見込みにくい。

わが国においても、アメリカでみられる事態の二の舞を懸念する必要はない。もっとも、わが国では、平等意識が根強いほか、高齢化に伴い所得格差が拡大しやすい社会・経済構造になっていくことから、格差拡大を招きかねない事象に対しては、早めに対処していく必要がある。

第1に、最低賃金は低水準で放置されている。低賃金層の増加による国内消費の低迷、ディスインフレ長期化を回避するためにも、最低賃金を毎年経済合理的なペースで引き上げていく必要がある。第2に、低賃金層の割合が大きい。内訳をみると、24 歳までの若年世帯、「ひとり親と未婚の子のみ」世帯で著しく大きく、高等教育の充実、子供の教育機会確保に向けた公的扶助の拡充等の措置が必要だろう。

一方、わが国のジニ係数は、2000 年以降ほぼ横ばいで推移している。この一因には、高所得者層の減少が指摘できる。すなわち、所得が1,000 万円超の世帯比率も大幅に低下しているほか、上位20%の所得層の所得水準も大幅に低下している。

これらは、わが国がもはや豊かな国ではなくなっていることを意味しており、実際、世帯当たり所得、一人当たり賃金いずれも1990 年代半ば以降減少している。この結果、わが国の購買力平価ベースでみた平均賃金は、もはや先進国グループから脱落しそうな水準まで低下している。低賃金の常態化、人口減少を受け、持続的な内需拡大は事実上困難になり始めており、こうした状況が続けば、早晩外国人労働者の獲得も困難になるとみられる。

わが国が何より注力すべきは、賃上げ等を通じて所得水準を高め、成長力を取り戻していくことである。わが国で低賃金が常態化した背景には、わが国経済を取り巻く逆風に対し、企業が人件費削減で対応しようとしたことにあり、その結果、潜在成長率や国際競争力も低下した可能性が高い。

賃金の引き上げには、それに見合うよう労働生産性を高めていく必要がある。ICT資本装備率の高い国ほど賃金上昇率も高いという傾向を踏まえると、デジタル関連投資を推進し、その有効活用に向けた人材育成、組織変革を行っていかなければならない。また、比較的高賃金の情報通信業や専門サービス業に対する需要を掘り起こしていく必要もある。さらに、今後需要拡大が見込まれる介護関連業種の賃金引き上げも不可欠だろう。

人口の長期減少局面に入っているわが国は、グローバル化・デジタル化に背を向けることはできない状況にある。全体の地盤沈下を食い止めるために、規制緩和などをこれまで以上に推進すると同時に、これまでのビジネスの在り方をよりデジタルを活用したものに変革していく必要がある。
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