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リサーチ・フォーカス No.2020-044

人口移動から見る震災復興の10年-一部地域に依然として震災被害の爪痕

2021年03月02日 藤波匠


2021 年3 月11 日、東日本大震災が発生してから10 年の節目を迎える。これを機に、被災地、とりわけ被害の著しかった3 県(岩手県、宮城県、福島県)における過去10 年間の人口移動を把握することによって、各地の復興状況のほか、県ごとの経済活力のバランスに生じている変化などについて分析した。

震災によって、一旦大きく転出超過となったのは宮城県と福島県である。しかし、宮城県では、仙台が被災地復興の拠点として機能したこともあり、震災直後の人口流出からの立ち直りは早く、翌年(2012 年)には6,000 人を上回る転入超過となった。

その後、復興需要が緩やかに減衰するなかで、宮城県では2015 年には転出超過に転じ、その数は2019 年には3,000 人となった。宮城県における3,000 人の転出超過は、震災前10 年間の平均値にほぼ一致。沿岸地域では依然として震災の爪痕が残るものの、震災によって落ち込んだ県内総生産や製造品出荷額は、すでに震災前の水準を上回って推移するなど、宮城県全体の経済状況は大きく改善し、人口移動もそれを反映して正常化した格好である。

一方、原発事故の影響で復興への着手が遅れた福島県では、2011年に3万人を超えた転出超過は、その後3 年かけて2,200 人にまで縮小した。しかし、2015 年から再び転出超過が拡大傾向となり、足元の3 年間では年平均7,700 人の転出超過となっている。福島県では、2000 年代の10 年間の転出超過が年平均6,700 人であり、足元の3 年間の平均はそれに近い水準となっている。

福島県は、被災地復興の拠点となった宮城県とは異なり、現状でも帰還困難区域が残るなど、他県と同一の基準で議論することはできない。製造品出荷額などの指標を見ても、その他被災2 県に比べて回復の遅れが顕著である。こうしたなか、震災前の大幅転出超過の状況に戻ってしまった格好である。

宮城、福島両県とも、転出超過の状況は震災前の水準に戻っているが、その意味合いは大きく異なる。宮城県では、おおむね復旧・復興にめどが立ったことから、人口移動が通常に戻ったとみることが可能である。一方福島県の場合は、依然として帰還困難区域が残り、製造業も復興道半ばにありながら、その状況を所与とした経済社会となってしまったとみることができる。

東北と東京圏の間の人の移動からみると、復興需要によって一時的に盛り上がっていた被災3 県の経済が通常状態に戻る過程で、東北の非被災3 県(青森県、秋田県、山形県)に比べ、岩手県、福島県の経済活力の低下は明らかで、人口吸引力が顕著に低下したことがわかる。宮城県では、東京圏の人口吸引圧力に抗しきれないなかで、東京へ流出した分を埋め合わせるように岩手県、福島県から人口を吸引している構図が認められる。

岩手県と宮城県の市町村単位で人口移動の状況を見ると、甚大な津波被害を受けた沿岸地域のうち、仙台都市圏が強さを発揮している一方で、それ以外の地域の人口流出傾向が強まっている。漁港やそれに付随する水産加工場などは、行政の関与もあり、復旧が進んでいるものの、各事業者では休業が長期化したこともあり、取引先の喪失などによる経営不振、あるいは事業規模の縮小に陥っていることがうかがわれる。

震災から10年が経過し、復旧・復興から次のステージへ向かうべきとの指摘もあるが、人口流出が顕著なエリアでは、津波被害が地域の衰退を加速したという印象は否めず、将来に向けた地域の持続性に対する懸念は高まっていると考えられる。国、県には、被災地域の持続性確保に向けた地域産業戦略の再構築が必要と言えよう。
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