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【次世代交通】
コロナ禍で見える移動販売車ビジネスの可能性

2021年02月24日 石川智優


 日本で初めて新型コロナウイルスの感染者が確認されてから1年以上が経過した。今もなお、感染は拡大し続け、社会活動、経済活動は元に戻っていない。感染対策のため、これまでにない勢いでリモートワーク、在宅勤務が導入され、仕事中や仕事帰りに繁華街の飲食店で食事をするなどの機会は激減した。

 このような状況下でも拡大し続けているビジネスがある。そのひとつが移動販売車による事業だ。モビリティを活用したキッチンカー(ランチスペース事業)などがそれにあたる。都心のオフィス街では数年前からよく見かけるようになっていたキッチンカーだが、外出自粛、飲食店での食事等が制限される中、改めて注目を集めている。外出自粛要請や飲食店の営業時間短縮、リモートワークの促進によって人の流れがオフィス街中心から住宅街中心に変わりつつあることがその要因の一つだ。都心部のいわゆる「オフィスのビル下」においてはすでに一般的だったが、オフィス街に加えて住宅街などの「マンション下」にキッチンカーを展開することで、店舗側が営業エリアを拡大する事例が増えている。住宅街にキッチンカーが来てくれることで、外出自粛が求められている顧客も、周辺にはない飲食店の味を気軽に楽しむことができる。「顧客が飲食店に足を運ぶことが難しいのであれば、顧客のところへ移動できる店舗を持つ」ということである。

 移動販売車ビジネスを展開する代表的な企業として、株式会社Mellow(以下、メロウ)が挙げられる。メロウは、ビルの空きスペースとフードトラックをマッチングするフードトラック・プラットフォームや、フードトラック開業パッケージ、フードトラックの開業支援プログラムなどを展開している。フードトラック・プラットフォームのキッチンカー登録店数は1,000を超えている(2021年1月時点)。コロナ禍により厳しい経営状況が続く飲食業界で、業態転換や多角化の手段としてキッチンカー形態への参入や転換が相次いでいる。テイクアウトが主となるキッチンカーはいわゆる3密を伴わず、コロナ禍においても展開ができる飲食店の業態だ。

 メロウは、大阪府豊中市の住宅街や兵庫県神戸市の住宅団地などで実証実験も実施している。豊中市ではキッチンカーが好評であったこともあり、期間を延長し、対象エリアを拡大、事業者も増やして実証実験は継続的に行われている。また、生活利便施設(スーパー、コンビニ等)が充実していない、神戸市の住宅団地の縁辺部において、移動販売車での生活サービス提供を支援する実証実験を行った。この実証実験では、キッチンカーだけでなく、移動スーパーなどの移動販売車も含めて、都市における課題解決を探ることが目的とされている。
 さらに、キッチンカーは日常的にサービスを提供するだけでなく、その機動力を生かして災害時に被災者に食事を提供する機能が期待されている。

 これまでは人が便利に移動するためのモビリティサービスをどのように展開するか、まちづくりとモビリティサービスを一体的に検討することで、どうしたら住みやすいまちが実現できるかなどが議論されてきた。これは「人が移動すること」が前提の議論だった。しかし、新型コロナウイルスの蔓延により「人が移動する」という前提に加えて、「人が移動せずとも便利で豊かな生活を送ることができるにはどうすべきか」ということも加味して、まちづくりを検討することが有効だと分かった。

 今回はキッチンカーを代表とした移動販売車について言及したが、モビリティサービスとまちづくりを一体的に検討するように、移動販売車ビジネスもまちづくりと一体的に検討し実装されていくことが望ましい。


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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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