コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経営コラム

オピニオン

堅牢なロボット開発体制の実現を目指して

2021年02月24日 大原慶久


 福島第一原発事故から約10年が経過した。福島第一原発では、2022年からの燃料デブリ回収開始に向け、廃炉作業が推進されている。1号機はオペレーションフロアのガレキ撤去、2号機は構台の建築、3号機は燃料取り出しがほぼ完了している状況だ(※1)

 事故発生直後から敷地内の作業環境整備や「事故収束に向けた道筋」立案のため、建屋爆発によって吹き飛んだガレキの除去が行われた。建屋外では遠隔操作技術を活用した無人重機群が活躍した一方で、建屋内調査に速やかに投入できたロボットはiRobot社のPackBotだった。国産ロボットでは極限作業ロボットプロジェクト(1983~1990)や原子力防災支援システム(2000~2001)で開発されたロボットのほか、原子力安全技術センターが開発した防災モニタリングロボットが存在していたが、ガレキ散乱に加え復旧用の仮設施設が散在している環境では、実用には耐えられないとの懸念があり投入は見送られた。その後、ロボットの研究開発について、改めて多くの議論がなされることとなった。

 その甲斐もあってか、ロボット研究開発を取り巻く環境は随分と改善した。特に、ロボットの研究開発を加速する場が増えてきたことは特筆に値する。具体的に、1つ目はプラント保守や災害対応の種目がある実践的なロボット競技大会が実施され始めたことだ。DARPA Robotics Challenge(2013,2015)、European Robotics Challenge(2014~2018)、Autonomous Robot for Gas & Oil Sites Challenge(2015~2017)、World Robot Challenge(2021予定(※2))などだ(※3)。競技大会はエンジニアにとっては研究開発の場となり、一般の人からは技術レベルが理解できる場となる。
 2つ目はフィールドの整備が進んできたことだ。2015年10月には楢葉遠隔技術開発センターが開所したのに続き、2020年9月には福島ロボットテストフィールドが開所された。これら施設には災害対応エリアが用意され、想定可能な災害現場を実規模で再現できる場になっている。

 継続して研究開発できる環境は整いつつあるが、継続した投資に関してはまだ不透明だ。廃炉活動に投入できるロボットの開発は技術レベルが高く多額の投資を必要とするが、台数は少なく収益に結び付かない。高度なうえ少量の開発という特徴においては同じような状況にあるNASAでは、技術の商業化を政策綱領の中心に位置づけ、商業化と技術移転を積極的に推進することで成果を還元し、投資を回収しようとしている(※4)。これをロボット開発に置き換えると、開発企業外への技術提供や製品への技術転用を認めることだと考えられる。良き事例は参考に、いまだ事例が無いのなら議論を重ねて、堅牢なロボット開発体制の実現を日本国内でもなお一層進められよう、関与していきたい。

※1 東京電力ホールディングス廃炉プロジェクト (2021年2月10日時点)
※2 経済産業省ニュースリリース
※3 横井一仁 ロボット国際競技会 日本ロボット学会誌 2019 Vol37
※4  阪崎裕美. 米航空宇宙局(NASA)における宇宙技術及び関連特許の活用 特技懇誌 2010 257号


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
経営コラム
経営コラム一覧
オピニオン
日本総研ニュースレター
先端技術リサーチ
カテゴリー別

業務別

産業別


YouTube

レポートに関する
お問い合わせ