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海洋汚染解決に向けた生分解性プラスチックの利用拡大の方向性

2021年02月09日 福山篤史


 「2050年には海洋中に存在するプラスチックごみの重量が魚の重量を超過する」という、ショッキングな試算結果が2016年1月のダボス会議で報告された。毎年少なくとも800万トンものプラスチックごみが海洋中に流出しており、現在のペースで流出が続けば、2050年までには、海洋中のプラスチックごみの重量が魚の重量を上回るという。さらに、海洋中のプラスチックごみのうち、約8割が陸上から流れ出たものであるという試算も出ている。こうした状況を踏まえ、海洋汚染問題の解決に向けて、陸上で発生するプラスチックの廃棄量を削減する動きが不可欠であるという認識が広まり、世界各国でもこうした動きが活発化している。EUでは、2019年5月に「使い捨てプラスチック製品の流通を2021年までに禁止する法案」が採択され、ストローやカトラリーなどの使い捨てプラスチック製品が流通禁止となる動きが出てきた。日本においても、2019年にプラスチック資源循環戦略が打ち出され、3R(Reduce, Reuse, Recycle)を強化するとともに別の素材への代替を促進することが掲げられている。

 要は、3Rか別の素材への代替かになるのであるが、どちらも簡単ではない。3Rについては、日本のように、環境への意識が高い層が一定数存在する先進国でさえ、分別・リサイクルを徹底することが難しい事実を踏まえると、今後、プラスチック製品の需要拡大が予想される発展途上国において、プラスチックの分別・リサイクルが徹底されるとは考えにくい。別の素材への代替にしても、プラスチック特有の加工のしやすさ・軽さは、別の素材で代替することが難しいことも非常に多い。3Rも別の素材への代替も難しいならば、プラスチック自体を変えられないか。そういう観点から注目されているのが、生分解性プラスチックである。もちろん、生分解性プラスチック全般が海洋汚染問題の解決に役立つわけではない。「生分解性」は、土壌中など分解を担う微生物の働きが活発な環境で分解される特性を指すことが多く、温度が低く、流れのある海水中でも分解される特性を持つものは限られてくるからである。海洋中で分解される特性を持つ生分解性プラスチックに、特殊な微生物細胞内で合成されるポリヒドロキシアルカン酸があるが、これは海水中でも6カ月程度で約90%まで分解されることが明らかになっている。そこで、海洋汚染問題の解決の切り札として期待されているのであるが、実利用は進んでいないのが現状であり、その利用拡大が課題となっている。

 実利用が進まない理由の第一は、過去はコストであった。従来、生分解性プラスチック素材は、生物反応により合成されるため、化学的・工業的な製造法に比べて生産効率が低く、素材の価格が高いことが障害とされてきた。しかし、近年の研究開発のもと、日進月歩で生産効率が向上しており、現在は素材の価格は石油由来のプラスチックと同等まで低下してきている。コスト面での課題は克服されつつあるが、次に課題になるのが、耐久性や加工のしやすさである。一般に、生分解性プラスチックは、石油由来のプラスチックに比べて耐久性や加工のしやすさに劣るとされ、それが石油系プラスチックからの代替を阻んできた側面がある。

 では、どうしたら良いか。まずは、それぞれの弱点を認めた上で、適材適所での利用を進めることであろう。行政サイドでは、栃木県益子町において、ごみ袋ではさほど耐久性が必要されない点に着目し、市指定のごみ袋に生分解性を有するプラスチック素材を採用する取り組みが始まっている。また、民間サイドでは、環境中で分解される特性を活かして廃棄・回収に要する手間・コストを削減できることをウリに、利用拡大を促すことが有効であると考える。特に、自然環境との接点が多い農業分野において、生分解性による恩恵が大きくなると考える。例えば、農業用マルチフィルムに生分解性プラスチック素材を利用した場合、最終的に土壌へ漉き込むことで処理できてしまうため、回収・廃棄が不要となる。このように需要側から仕掛けていくことで、新規素材の市場を活性化し、生分解性プラスチック素材の性能向上に向けた研究開発を推進する、というサイクルを生むことができるであろう。

【参考文献】
1)駐日欧州連合代表部「欧州議会、2021年までに使い捨てプラスチック製品を禁止することを支持」
2)McKinsey&Company「Saving the ocean from plastic waste 」
3)環境省「プラスチック資源循環戦略(概要)」
4)日本バイオプラスチック協会「バイオプラスチック概況」
5)朝日新聞「ごみ対策に生分解性プラ(2019年1月21日)」


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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