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リサーチ・フォーカス No.2020-039

アメリカの所得格差-バイデン政権下での「分断」解消は困難

2021年02月10日 牧田健


アメリカでは、社会の「分断」が深刻化しており、バイデン大統領はこの「分断」の修復、解消に取り組んでいかなければならない。以下では、この「分断」の根本原因である「所得格差」拡大の背景を探り、バイデン新大統領のもとで、「分断」はどこまで解消できるのかについて検討していく。

アメリカでは、1980 年前後から、富裕層(上位10%)、とりわけ上位1%の超富裕層のみが突出して所得を増加させており、超富裕層とそれ以外の間で所得格差が拡大している。この背景の一つに最高税率の引き下げをはじめとした富裕層優遇の所得税制が指摘できる。もっとも、最高税率の引き下げが止まっても、所得格差の拡大に歯止めがかかっておらず、税率以外にも格差拡大を促す要因がある。

第1に、付加価値の分配における労働から資本へのシフトが挙げられる。実際、アメリカの労働分配率(雇用者報酬/GDP)は、1970 年代以降低下傾向にあり、2000 年以降は低下に拍車がかかっている。一方、家計所得の内訳をみると、賃料利子・配当など資産からの収入、事業主収入が給与の伸びを大きく上回って増加しており、家計から、資本家あるいは起業家などへの分配の偏りが生じている。

第2に、労働分配率の低下に伴うFRBの金融緩和、それを受けた資産価格の高騰という経路も、格差拡大を招いている。すなわち、賃金上昇率の鈍化はインフレ率の低下基調を通じて、FRBによる大胆な金融緩和を可能にしており、1990 年代入り以降資産価格は高騰が続いている。資産保有が富裕層に集中するなか、資産からの収入や分配の恩恵に浴するのは、富裕層に偏っている。

第3に、製造業の地盤沈下をはじめとした産業構造の変化も指摘できる。経済のサービス化が進むなか、全産業においてほぼ平均の賃金水準にある製造業雇用の比率が大幅に低下し、その受け皿として、一部は専門・技術サービスといった高賃金業種にシフトしたものの、総じてみればレジャー・外食や人材サービス等の低賃金業種にシフトしている。

これらの底流には、①グローバル化、とりわけ異質かつ巨大な中国の国際市場参入、②デジタル化伸展を受けた生産性の高まりとそれに伴うデジタル・デバイド、③1980 年代以降の新自由主義、象徴的には市場原理主義、株主資本主義の考え方が広まったことが指摘できる。新自由主義の下、企業の最大の目標が利益の最大化となり、「小さい政府」のもとで様々な福祉・公共サービスが圧縮された。新自由主義は、アメリカ経済の復活をもたらしたが、富裕層から貧困層に成長が均霑していくというトリクルダウンは実現せず、成長の恩恵に与れない人々が増加した。

リーマンショック以降、グローバル化をはじめとするこれまでの新自由主義を見直す動きが顕在化している。企業サイドでも、アメリカの経営者団体が、これまでの「株主資本主義」から「ステークホルダー資本主義」への転換を宣言している。国家資本主義の色彩が強い中国の台頭も、自由放任・企業利益優先ではなく一定の公的関与が必要との認識を再び高めている。こうした状況下、富裕層に対する課税強化、最低賃金引き上げ等を掲げたバイデン氏の大統領選挙での勝利は、まさに時代の流れに即したものといえる。

もっとも、議会勢力は、バイデン氏が掲げた政策を公約通り実行できる状況にはない。税制以外の面でも、企業の方針転換により、労働分配率の一段の低下は回避される可能性があるものの、利益の悪化を招く恐れのある大幅な引き上げを実行できるわけでもない。投資家も、短期的には利益圧縮・株価下落につながる施策を前向きに評価する可能性は低い。グローバル化、デジタル化の潮流それ自体も反転させることは困難であり、背を向ければむしろ景気の停滞長期化を招きかねない。結局、バイデン新大統領が様々な政策を打ち出していっても、格差拡大がグローバル化・デジタル化の大きな流れや1980 年以降の新自由主義をベースとした経済活動の結果として積み上がったものである以上、その是正もやはり長期にわたって少しずつしか進展しないとみておく必要があろう。
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