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アジア・マンスリー 2021年2月号

チャイナ・プラスワンで優位に立つベトナム

2021年01月28日 塚田雄太


コロナ禍でもベトナムは他のASEAN諸国とは対照的にプラス成長を維持した。低賃金、中国との近接性、積極的な貿易協定等の締結、が中国からの生産移転先としての優位性を高めたことが大きな要因である。

新型コロナ禍でもプラス成長を維持
2020年のベトナムの実質GDP成長率は前年比+2.9%であった。前年の同+7.0%からは大幅な減速となったものの、新型コロナ感染拡大による景気悪化から素早く立ち直った中国の同+2.3%を上回り、軒並みマイナス成長が予想される他のASEAN主要国とは対照的な結果となっている。

足元にかけての好調なベトナム経済を支えたのは輸出であった。2020年のドル建て輸出の伸びは前年比+7.0%と、他のアジア主要国を大きく上回る。背景として、世界的な新型コロナ感染拡大とそれに伴う活動制限措置の導入でテレワークが急速に普及し、ベトナムに生産拠点があるパソコンや半導体などIT関連輸出財に特需が発生したことが挙げられる。こうした需要面の動きに加え、近年の米中対立の激化を受け企業が中国から生産拠点を移し、これら需要増に対応できる生産能力がベトナムで高まっていたという、供給サイドの要因も指摘できよう。これは、海外拠点を中国へ集中させることによるリスクを回避し、中国以外の国・地域へも分散して投資する経営戦略である「チャイナ・プラスワン」によって中国依存度の低下が図られるなか、ベトナムが生産移転先の最有力国となっていることを象徴する動きでもある。

ベトナムに生産拠点移転が進む三つの要因
もっとも、ベトナムのビジネス環境は他のASEAN諸国と比べ大幅な改善はみられない。世界銀行が発表する「ビジネスのしやすさランキング」をみると、2017年以降70位前後であり、ASEAN域内のマレーシア(2019年:12位)、タイ(同21位)を下回り、インドネシア(同73位)と大差ない順位である。ビジネス環境がそれほど整備されているとはいえないにも関わらず、企業が中国からの生産移転先としてベトナムを選ぶ要因として以下の3点がある。

1点目が安価な労働力である。ベトナムへの生産移転の動きは労働集約的なアパレル産業に加え、電気・電子産業でも確認される。後者についても資本集約的な製造工程ではなく、多くは最終組み立てなど労働集約的な製造工程であり、ベトナムの一般工の賃金が他のASEAN諸国に比べ低位であることが優位に働いているとみられる。実際、賃金水準はマレーシアとタイの55%、インドネシアの75%であり、同程度のフィリピンと並んで労働コストの面で高い競争力を持っている。

2点目が中国との近接性である。これまでの経済発展で中国は「世界の工場」としての地位を確立し、多くの分野で産業集積に成功してきた。その中国で事業を拡大した企業は中国外への生産移管を考える場合も、原材料や部品の中国依存を大きく変えられないことが多い。この点において、北部で中国と国境を接し、陸路での輸送が可能であることがベトナムの優位性となっている。ベトナムの貿易総額はマレーシアやタイと同程度であるが、対中貿易でみれば近年中国の貿易総額に占めるベトナムのシェアが急増している。

3点目が貿易協定等の締結による輸出環境の整備である。ベトナムは国際経済統合という国是のもと積極的なFTA戦略を展開しており、2014年以降はそれまでの「ASEANプラスワン」のFTAだけでなく、「ベトナムプラスアルファ」のFTAも多く締結している。また、「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」と「欧州ベトナム自由貿易協定(EVFTA)」も今後更なる通商拡大に期待を持たせるものである。企業は他のASEAN諸国に立地した場合、FTAを活用できる市場は世界輸入の約3割であるが、ベトナムに立地することで世界の輸入市場の65%に競争的な条件でアクセスできる。

今後の成長には産業構造の高付加価値化が必要
以上のように、①低賃金、②中国との近接性、③積極的な貿易協定等の締結、という要因が、ベトナムの生産移転先としての優位性を高め、足元での急速な経済回復につながったと言える。米国での政権交代後も米中対立が緩和する可能性は低いうえ、新型コロナ感染拡大初期の中国での物流停止などを受け、中国依存の低下を図る動きはさらに強まっている。こうした優位性は当面変わらないとみられるなか、ベトナムは輸出をけん引役に堅調な成長を続ける可能性が高い。

しかし、現状のベトナムは「チャイナ・プラスワン」での成長、つまり中国の「低付加価値分野での下請け的な存在」に過ぎないとも言える。生産移管が進む電気機器産業でも、比較的付加価値の低い最終工程での製品の輸出競争力が高まっているが、高付加価値の電子部品などを含む中間財では低い競争力にとどまっている。今後、より賃金の低いカンボジアやラオス、ミャンマーが低付加価値産業の受け入れを拡大させてくることになれば、ベトナムはその地位を維持することが難しくなる可能性がある。

ベトナムが中長期的においても安定的な経済発展を遂げるには、将来的に中国の下請け的な存在から脱し、低付加価値産業の受け入れだけでなく、より高付加価値な産業の育成を強化していくことが求められる。そのためには「ビジネスのしやすさランキング」で評価が低い株主訴訟のしやすさや破綻処理法制の整備などに向けて制度改革を実行していくことが必要となろう。
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