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【スマートインフラ】
「配電網ライセンス制度」は街づくりにどのような影響をもたらすか

2021年01月26日 七澤安希子


 発電所で発電された電気は、送電網、変電所、配電網を経て、消費者に届けられる。送電網を通じて発電所から大量の電気を高い電圧で効率よく送り、変電所において消費者が利用しやすい電圧に下げた後、変電所から消費者間をつなぐ電気のラストマイルが配電網である。
 2020年6月にエネルギー供給強靭化法が成立し、2022年からは「配電網ライセンス制度」が導入されることが決まっているが、このことは配電網に関して非常に大きなトピックとなっている。配電網ライセンス制度とは、送電系統運営者以外の事業主体が、送電系統運営者が保有する既存の配電網を借り受けまたは購入し、配電網管理を行うことが可能になる制度である。これにより、これまで送電系統運営者に集約していた事業の権利や運営ノウハウが開放されることとなり、他業種の参入によって配電網管理における新たなイノベーションが創出されることが期待されている。今後、配電網エリア独自のエネルギー供給の在り方が生まれてくることが見込まれる。

 配電網ライセンス制度に関して様々な業種の方々とディスカッションを行うと、エネルギー会社だけでなく、鉄道会社やゼネコン等の街づくりや都市インフラ事業に携わる企業の方々も関心を示してくる。2022年、制度の導入に向けて、今後どのように制度設計が進むのか注視しているのである。

 なぜこの制度が、エネルギー業界以外の企業にも関心を持たれているのか。それは、配電網インフラの活用が、今後の街づくりの主要コンテンツになると捉えられているからである。その理由は次の二つである。

 一つ目が、配電網インフラの導入により再生可能エネルギーの活用が進み、街のエネルギー自立化・レジリエンス向上につながることである。従来、再生可能エネルギーは、送配電網への電圧変化をもたらすことから、一極集中型の管理を行う広域送配電網配電網への導入は進みづらかった。それがこの制度によって、今後は配電網単位での運営・調整・管理技術が進み、再生可能エネルギーの電圧変化に細かに対応することが可能となる。これによって再生可能エネルギーの導入が進めば、エネルギーの地産地消や非常電源としての活用につながることが期待される。

 二つ目が、既存街区への展開・導入ポテンシャルの高さである。コロナ渦をきっかけに人々の働き方や居住様式が集積から分散へと移行することに合わせ、街づくりの理念も今後変化していくことが考えられる。例えば、より環境の良い郊外型の居住ニーズが高まり、本社から離れたエリアでの労働が進むことで、付加価値の高い分散型の街区へのニーズが高まる。既存の街区を新たな居住者の新たなライフスタイルに適応させていく上で、配電網ライセンス制度の導入は、エネルギーインフラ起点での街区全体の価値の見直しや創出を可能にすることが期待されている。

 今後、気候変動対策やコロナ渦を背景に、新たな街づくりの理念が生まれ定着していくであろう。日本全国ありとあらゆる場所に張り巡らされている既存の配電網を有効活用し、配電網ライセンス制度を契機とした既存の街のリノベーションが進むことを期待したい。そして、その実現に向けた検討を先導していきたいと考えている。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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