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アンチ「ESG」にどう向き合うか:サステナブル人材育成への道

2021年01月26日 橋爪麻紀子


 筆者が所属するESGリサーチセンターは、過去20年間、国内のESG金融の普及のための商品開発やコンサルティングを続けてきたチームだ。2015年にパリ協定とSDGsが採択された後、ESGという言葉が普及しつつある今日、ありがたいことに講演、研修、寄稿などの機会を頂くことが少しずつ増えた。

 ESGに前向きに取り組みたい方々からのご依頼が多いが、打ち合わせを進めると「実は、なぜESGやSDGsがこんなに流行っているのか分からない」「腑に落ちていない」「業務と関係づけられない」という本音がたまに聞こえる。疑問を持つのは重要だが、その感情のまま研修を開催していただいても、きっと受講者の頭にも心にも同様のモヤモヤ感が残るはずだ。

 そのため、そうした方々の環境や関心に応じ、同じスタートに立っていただけるよういろいろな話し方をする。当チーム内でも「こういう意見にはこういう返し方が良い」という経験の蓄積がそれなりに出来てきた。そのうちの、いくつかの例を挙げてみた。

■「やらないとどうなるのか」:この場合の答えはシンプルだ。世界中の調査研究を用いれば、10年、20年後に起こり得るリスクを一定程度は予測できる。例えば、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告書を用いれば、気候変動がもたらす世界へのリスクが説明できる。
■「儲からないのになぜやるのか」:時間軸の考え方が問題だ。確かに、今年ESGに取り組んでも、短期的な収益には直結しない。しかし5年、10年後に規制環境が厳しくなる可能性もある。長期的に見れば追加でかかる規制対応コストを早期に緩和できるかもしれない。
■「グレタさんは生意気だ(※1)」:感情的な問題かもしれない。グレタさんを忘れて、お子さんやお孫さん、ご親戚が暮らす未来の環境を考えた時、気候変動問題を自分ごと化できないだろうか。
■「業務と関係づけられない」:気付きの問題だ。極端に言えば、ESGやSDGsと紐づかない仕事はない。医療・教育のように社会課題に近しい業種でなくとも、働きがいにジェンダー、環境対策など多かれ少なかれ紐づくはずだ。

 一般的に、人は「やらされ感」が強いとものごとが長続きしない。または本来見込んでいた効果が薄れてしまう。投資家や経営層に言われて、仕方なくESGに取り組むケースもたくさんあるが、なぜ「ESGに取り組む」かの真の理由を考えることが大切だ。

 筆者の仕事を思い返してみても、特に企業に対して「やらないと将来大変なことになりますよ」と、ややリスクをあおる話し方をすることが多かったと思う。まずは、このロジックを少し修正してみることを、最近、心掛けている。企業よりも個人の意識の変容のほうが先にある必要があると考えるからだ。企業を構成するのは個人だ。リスクをあおらずに行動変容を促すには、「nudge(ナッジ)(※2)」と言われるような「強制でない気付き」が必要だ。そして、その気付きを行動に孵化させるカギは、それが「楽しい」「格好いい」「気持ちいい」「嬉しい」といったポジティブな感情ではないだろうか。

 これまで金融と向き合ってきた著者のチームは昨年からサステナブルな人材育成に力を入れるようになってきた(※3)。感覚的な意見だが、若い方ほど、しがらみもなく、サステナビリティになじみやすい感覚を有しておられるような気がする。地道な道のりではあるが、今年は個人の行動変容を意識した人材育成の仕掛けに注力していきたい。

(※1)スウェーデン環境活動家のグレタ=トゥンベリさん(18)(執筆時)
(※2)経済インセンティブではなく、行動科学の知見に基づいて、人々が社会、環境、自身にとってより良い行動を自発的に選択するよう促す手法 参考記事
(※3)サステナビリティ人材育成プログラム「SAKI」のアカデミア向け無償版の提供 参考 参考リリース


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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