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CSRを巡る動き:「nudge(ナッジ)」がもたらす行動変容 SDGs達成への気付き

2019年07月04日 ESGリサーチセンター


 SDGsが採択されてからまもなく4年、その認知は国際機関から政府へ、政府から企業、金融へと国内で徐々に広がってきました。SDGs達成に資することを謳った製品・サービス、金融商品も増えています。しかし、市民一人ひとりへの認知度はまだ十分だとは言い切れません。電通が2018年に実施した調査(注1)では、世界20カ国・地域におけるSDGsの平均認知率は51.6%である一方、日本の14.8%という認知率の低さは際立っていました。市民による個人消費がGDPの約6割を占める国内において、一般の人々の認知度が低いままでは、政府や企業のSDGsへの取り組みの足かせとなり、ひいては2030年にむけた日本のSDGsの達成度にも影響を与えることになります。

 このような市民一人ひとりの認識を変え、行動を促すための手段として、「ナッジ (nudge)」という考え方があります(注2)。英語では、「肘で突く、そっと後押しする」という意味で、経済インセンティブではなく、行動科学の知見に基づいて、人々が社会、環境、自身にとってより良い行動を自発的に選択するよう促す政策手法として注目されています。ナッジは、2003年にシカゴ大学リチャード・セイラー教授らによって提唱され、その費用対効果の高さからイギリス、カナダ、アメリカ、オランダ各国の公共政策での活用が進められてきました。セイラー教授は2017年にはナッジの活用に関し、ノーベル経済学賞を受賞しています。

 日本国内でも2017年から環境省でナッジ事業が始まり、家庭、業務、運輸部門でのCO2排出削減を目的にナッジを活用した検討を進めています。現在では、他の省庁にも横展開され、厚生労働省では予防医療促進に向けたがん検診の受診率向上や、経済産業省ではエネルギーや中小企業向けの事業促進にナッジの活用が検討されています。

 ナッジの具体的な事例に、2000年のカリフォルニア州の大規模停電後の省エネ実証があります(注3)。「節約しましょう-エアコンを消し扇風機を」、「環境に優しく-エアコンを消し扇風機を」、「より良い未来のため-エアコンを消し扇風機を」というメッセージを書いたカードを各家庭のドアノブにかけ、その影響を調査するものです。結果、先の3つのメッセージはどれも効果を生まず、もっとも効果があったメッセージは「ご存じですか?ご近所さんはすでにエアコンから扇風機に変えています」という内容だったそうです。これは住民のコミュニティへの帰属意識に訴求できた結果と考えられ、いいかえれば、省エネを自分ごととしてとらえるきっかけを強制せずに市民に与えることができた結果と言えるでしょう。
 
 こうしたナッジの考え方は公共政策だけでなく社会課題の解決といった側面でも有効と考えられています。世界銀行では途上国での教育、金融、保険といった開発事業の効果を向上させるため、行動経済学に特化したユニット(eMBeD)が組成されています。SDGsの達成には市民一人ひとりが自分のアクションを見つけるきっかけが必要、ということがよく言われています。しかし、その認知度が依然として低いなか、単純に17の目標達成を促すメッセージだけでは不十分であることが徐々に見えてきました。今後、政府や企業の「ナッジ」的な働きかけを通じて、消費者である市民の一人ひとりに気付きを与え、SDGsを自分ごと化し、より良い行動を自発的に選択できるようになることこそ、日本のSDGs達成に向けたカギとなるでしょう。

出典:
(注1) 電通「SDGsに関する生活者調査」

(注2) リチャード・セイラー、キャス・サンスティーン(2009)「実践行動経済学、健康、富、幸福への聡明な選択」、日経BP

(注3) 日本オラクル社プレスリリース:ノーベル経済学賞「ナッジ理論」を実践。全国30万世帯にCO2削減への省エネ行動を奨励 オラクルが10カ国100以上の事業者との実践で培ったノウハウを提供
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