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2008年11月11日

介護支援ビジネスの発展に向けた制度改革の視点 ~経営改善のインセンティブが強い報酬体系に~

【ポイント】
1) 2000年度の介護保険制度の導入により介護ビジネス市場が誕生したものの、その主な担い手として期待された訪問系介護事業者の経営実態は厳しい状況。その背景として、a.報酬制度が柔軟性に欠けること、b.サービスの担い手であるヘルパーの不足が深刻化していること、c.非正規雇用の活用による稼働率向上に限界があることが指摘可能。
2) 2上場大手事業者の経営状況を分析すると、訪問系サービスにおいては「規模の経済性」が働きにくい構造。また、各社とも介護報酬の改定に大きく左右される事業環境をリスクとして認識しており、今後、訪問系サービスが縮小する可能性も。既に比較的業績の良い企業は、より収益性の高い通所・居住系サービスに注力。
3) 訪問介護ビジネスを発展させていくには、事業者間の競争を健全な形で促進する制度設計が望まれる。具体的には、a.事業者の経営改善のインセンティブの強化、b.市町村による事業者監視の強化、c.市場の予見可能性の向上が必要。一方、保険財政の安定化に向けた取組も急務であり、「負担増加」または「給付抑制」に関する国民レベルでの議論が求められている。
【レポートの要旨】
1.  わが国では2000年4月に介護保険制度がスタート。これに伴い、介護サービスの主な担い手として居宅サービス事業への営利法人の参入が認められ、介護支援市場が急成長を遂げた。しかしながら、事業所の経営実態をマクロデータでみる限り、訪問系介護ビジネスの採算性は低く、介護産業は順調に成長していると言い難い。
 本レポートでは、同産業の主役として位置づけられている訪問介護事業者の経営状態の分析を通じ、そのビジネスとしての発展性を検証する。そのうえで、介護保険制度の抱える問題点を抽出し、制度の持続性を確保するために採るべき政策について考える。
2.  訪問介護ビジネスの収支構造を確認すると、特徴として以下3点を指摘可能。
a. 全収入に占める保険外収入の割合がほぼ0%であり、保険適用外サービスの提供による収入の上乗せはわずかにしか行われていない。保険適用サービスは公定価格であるため、収益確保を目指す事業所は、薄利多売かコスト削減を志向する形。
b. コスト構造をみると全支出に占める人件費の割合が82%と大きい。そのため、事業所が収支改善を目指してコスト削減に取り組む場合、その対象が介護職員の賃金に及び易い。
c. 全支出に占める減価償却費の割合はわずか2%であり、投資負担が小さい。このため、参入障壁が低く、中小事業者が参入し易い半面、供給過剰から競争が激化し易い。この結果、保険外収入が得られにくい現状では、事業所間の競争はコスト面で行われがち。
3.  以上の収支構造を踏まえて事業所の経営状況を確認すると、訪問介護ビジネス発展の条件は、a.安定需要が見込める立地、b.ホームヘルパー人員の確保、c.ホームヘルパーの稼働率向上の3点に整理可能。しかしながら、現状の訪問介護ビジネスは厳しい事業環境下に置かれていると言わざるを得ない状況。
a. 需要量とアクセス効率の両面で好条件を満たす立地は限られる。そのため、事業所が特定地域に集中し、価格単価が公定されている介護報酬体系下においては、限られたパイの奪い合いが経営効率の低下を招く結果に。
b. ホームヘルパーの不足が深刻化。サービス供給の担い手が十分に確保できなければ、収益の安定化に必要な事業量を確保できない恐れ。
c. 現状、ホームヘルパーの稼働率向上は非正規社員を最大限活用することで成り立っているが、非正規ヘルパーの賃金上昇が見込まれるなか、その持続性に疑問。
4.  マクロデータから読み取れる平均像をみる限り、訪問介護ビジネスの採算性は芳しくない。次にミクロの観点から上場大手の経営状況をみると、各社戦略の違いを反映し、採算性にばらつき。
a. 成長性、収益性ともに高い水準で安定的なグループ企業は、そもそも訪問系サービスを主戦場としていない。比較的収益性の高い居住系サービスを重視。
b. 訪問系サービスをメインに事業展開する企業については、成長性の向上に見合う収益性の向上が認められず、「規模の経済性」が働きにくいとみられる。
c. 各社とも、介護保険制度の改定を事業上のリスクとして認識。介護報酬の改定に収益が大きく左右される訪問系サービスを縮小させる要因にも。
 このようにみると、大手各社が今後、事業の重点を訪問系サービスから通所系、居住系サービスへシフトする可能性も想定される。
5.  以上の分析を総合すると、現行制度のままでは訪問介護ビジネスの発展性には疑問な面も。市場メカニズムを利用した介護システムの創出という当初の目的を維持、発展させ、保険制度の持続性を確保するためには、事業者間の競争を健全な形で促進し、在宅介護事業のビジネスとしての発展性を高める制度設計が望まれる。具体的には、a.介護報酬に占める加算報酬額の比率を高め、事業者の経営改善のインセンティブを強める、b.市町村による事業者監視機能を強化し、市場の健全性を維持する、c.急激かつ頻繁な制度変更を極力避けることで市場の予見可能性を高めること、などにより産業全体の生産性向上を支援することが必要。
 同時に、人材確保のできる賃金水準を保証する事業収入の確保が求められることに加え、高齢化による介護需要の増大が必至な状況のもとで、保険財政の安定化を図ることは極めて重要な課題。保険財政安定化には「負担増加」または「給付抑制」を避けて通れず、この点についての国民レベルでの議論が求められる。
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