2008年10月20日 |
新たな金融仲介者として注目されるプライベート・エクイティ・ファンド |
要旨 |
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1. | わが国では90年代後半に金融危機が深刻化し、企業の経営破綻が重なるなか、企業再生の担い手として、投資ファンドの存在が注目されるようになった。投資ファンドは投資対象や手法によりいくつかの種類に分類することができるが、プライベート・エクイティ・ファンド(Private Equity Fund:PEファンド)は、主に非上場・非公開企業を投資対象として、長期的な戦略に基づき買収し、企業価値を向上させたうえで上場・売却等を行い、収益を得ることを目的としている。PEファンドの規模は年々増大しており、2007年におけるPEファンドを含む世界の投資ファンドの取引総額(REITやヘッジファンドを除く、Thomson Financialのデータ)は8,000億ドルを超えている。 |
2. | 欧米の金融ビジネス界において、PEファンドは「資金供給の担い手」ならびに「投資対象」としてその存在感を高めている。PEファンドには、金融的な側面では、a.資金の供給、b.資産運用の多様化、非金融的な側面では、c.企業価値の向上とガバナンスの強化、d.産業の効率的な再編、といった効果が期待される。欧米の動向を参考に、わが国においてもPEファンドの資金や機能を積極的に活用し、資金の流れの円滑化や企業経営の合理化・効率化、産業再編などを進め、わが国経済の持続的成長へと繋げていく必要があると考えられる。 |
3. | わが国におけるPEファンドの活用の局面としては、a.大企業の事業再編、b.企業のグローバル展開、c.中小企業金融(事業承継、事業・組織・資本の再構築、業界再編等)、d.地域金融(地域経済の再生、活性化)、が考えられる。企業が事業計画を遂行したり、目的を達成するための選択肢の一つとして、PEファンドが存在するということになろう。 ただし、わが国でPEファンドが定着するためには課題も多い。具体的には、a.専門家や経営者などの人材不足、b.ファンドに対する企業の心理的抵抗感、c.EXIT(出口戦略)の環境整備、d.利益相反問題、e.制度(M&A法制、税制)の不確実性の問題などが挙げられる。 |
4. | 近年、わが国でもPEファンドの活動が広がるにつれ、金融機関と協調する場面が増加している。金融機関にとってPEファンドとのビジネスは、デットの供給やM&A・IPOの手数料などで収入が得られるばかりでなく、PEファンドの機能を活用して取引先企業の企業価値を向上させることにより、将来的な収益基盤の増強に繋げることができる。 わが国ではPEファンドの活動の歴史はまだ浅く、社会的にも十分な理解が進んでいるとは言い難い。PEファンドの活動をわが国で定着させていくためには、先に提示した課題を解決するとともに、既存の金融機関の機能を補完・補強する存在として、着実に実績を積み重ねていくことが求められる。 |