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アジア・マンスリー 2021年1月号

「双循環」戦略で所得倍増を目指す中国

2020年12月25日 関辰一


中国は2035年までの所得倍増を目指しており、その実現に向けた成長戦略が「双循環」である。これは、①内需主導型の成長、②自給自足の強化、③世界の中国依存度向上、の3点を重視した戦略である。

中長期の目標が示された5中全会
中国の中長期的な政策の方向性が示される重要会議、中央委員会第5回全体会議(5中全会)が10月に開催された。5中全会での議論は、「第14次5カ年計画と2035年までの長期目標に関する建議」(以下「建議」)としてまとめられた。これは11月3日に公表され、中国語で2万字、全15章60節から構成される。

あわせて習近平国家主席による建議の解説も11月3日に公表された。そこで習国家主席は、①質の高い成長の確保、②経済の新発展モデル「双循環」の構築、③2025年までに高所得国入り、2035年までにGDPあるいは一人当たり所得が倍増、④脱貧困・格差の是正、⑤安全保障・国防の強化、⑥共産党指導の徹底、⑦共産党100周年(2021年)に「小康社会」達成を宣言、の七つを2021~35年の政策運営における重要課題とした。

①質の高い成長の確保とは、不均衡を生じさせない「適度な成長」へシフトするとのメッセージと考えられる。中国政府は、高成長から中高速度の成長に移行した中国経済の姿を「新常態」と表現してきた。中高速度の成長とは、7%程度の成長である。今後も中高速度の成長を目指すと、さまざまな分野で不均衡を拡大させかねないため、質の高い成長の確保という表現に落ち着いたと考えられる。

③2025年までに高所得国入りとの目標を達成するには、米ドルベースの一人当たりGDPを年平均+4.5%以上増やす必要がある。高所得国とは、一人当たりGDPがおよそ1万3,000ドル以上の国を指すが、2019年時点の中国一人当たりGDPは1万278ドルであり、今後5年間の年平均増加率が+4.5%以上であれば、2025年時点で1万3,000ドルに達することができる。なお、直近5年間の一人当たりGDPの年平均増加率は+6.1%であった。

2035年にGDPあるいは一人当たり所得を倍増させるとの長期目標に関しては、ドルベースか、人民元ベースか、実質ベースか、名目ベースか、どの基準での達成を目指しているのか不透明ながら、一人当たりGDPが2万ドルの国へ成長するには、今後15年間にわたって年平均増加率+4.5%以上をキープし続ける必要がある。

この長期目標は、野心的な目標といえる。中国では、人口減少が2030年頃から始まるうえ、過剰債務・不良債権問題なども目標達成の障害となりかねない懸念材料である。

■目標達成に向けての成長戦略「双循環」
こうした中長期的な経済成長に向けての戦略として注目されるのが、②「双循環」である。建議では、双循環とは、さまざまな政策を通じて、内需を拡大すると同時に、貿易と対内投資・対外投資を拡大する考えであることが示された。

習国家主席の11月3日の解説によると、双循環とは経済の成長戦略であると同時に、国際協力と国際競争の戦略でもある。国内経済がスムーズに循環することで、海外のリソース(資本や人材)を惹きつけること、国内ニーズを満たすこと、技術水準を引き上げること、国際的な経済協力に参加すること、国際競争における新たな優位性を形成することが可能となるという。

もっとも、これらの説明だけでは、どの辺りが新しい発展モデルであるのか、どのような政策に重点を置く成長戦略であるのか、明確ではない。

■内需主導型の成長を重視
しかし、下記の内部会議における習国家主席の談話に注目すると、双循環および中長期の政策運営方針をよりよく理解できる。具体的には、習国家主席が4月10日に開かれた中央財経委員会における談話である。これは、「国家の中長期の経済社会発展戦略に関する重大な問題」というタイトルで中国共産党中央委員会の機関紙である「求是」の2020年11月号に掲載されたほか、5中全会の終了直後に当たる10月31日に政府のWEBサイトで公開された。

この談話によると、今後は国内大循環を主体として、国内外の「双循環」が互いに促進する新発展モデルを目指す。中国はこれまで「国際大循環」と称される発展モデルで成長してきた。しかし、近年において反グローバル化の動きがみられるようになったため、内需の拡大が長期的な経済発展にとってより不可欠になったという。

習国家主席がこの談話で、消費を重要なけん引役と位置付けたことも注目される。現在、中国における約4億人の中間層人口は世界で最も大きく、この中間層のさらなる拡大を重要な政策目標として設定する。そのために、所得分配を見直す、知識・技術・マネジメント能力などにおける貢献度合いに準じた報酬制度を構築する、人的資本投資を拡大する、と主張した。このように、習近平政権は消費拡大を柱とした内需主導型の成長を目指している。

この談話では、都市人口を増やし、現在61%にとどまる都市化率を引き上げる考えも示された。ただし、人口密度の高い人口1,000万人以上の超大都市、500万人以上の特大都市は例外であるという。加えて、健康、安全、便利な街づくりによって、国民生活の質を高める。育児、介護、家政、教育、医療などの需要に大きな伸びしろがあると述べた。すなわち、都市化が消費を拡大するための有力な政策として位置づけられている。中国の農村部では余剰労働力が限界に達し、「ルイスの転換点」を過ぎたとの見方もあるものの、習近平政権は、農村部にはいまだに潤沢な余剰労働力があると見なしている。

■自給自足の強化、世界の中国依存度向上
このほか、自給自足の強化と世界の中国依存度向上を狙い、独自の技術を高める方針も示された。建議では、産業、金融、財政、行政機構、社会政策、外交、防衛といった幅広い分野について課題が列挙され、そのなかでイノベーションが新しい国づくりの中核として位置づけられた。独自の科学技術こそ国家の発展を支えるという認識のもと、人工知能(AI)、量子暗号通信、半導体などの国家プロジェクトを、トップダウンで強力に進めていくという。

習国家主席の談話では、さらに踏み込んだ説明がみられる。技術を高めて、輸入代替を進めると明言された。狙いの一つは、弱みを補強することであり、万が一の時も生産が正常に行われるようにするという。

もう一つの狙いは、強みを強化することである。奥の手となる技術を磨き、高速鉄道・発電・(EVなど)新エネルギー・情報通信などの分野における優位性を維持・発揮する。世界のサプライチェーンにおける中国への依存度を高め、供給を停止する外国への強力な反撃・抑止力を形成すると述べた。これは、米中対立の長期化を想定した発言といえよう。

以上を踏まえると、注目される双循環および中国の中長期の政策運営において、①内需主導型の成長、②自給自足の強化、③世界の中国依存度向上の三つが、習近平政権が重視する政策であると考えられる。
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