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CSRを巡る動き:サステナビリティ情報開示基準の統合

2021年01月04日 ESGリサーチセンター、橋爪麻紀子


 2020年11月25日、国際統合報告評議会(IIRC)とサステナビリティ会計基準審議会(SASB)の両団体は組織を統合し、2021年半ばにバリュー・レポーティング財団(Value Reporting Foundation)という新組織を設立する方針を表明しました。近年、ESG投資の拡大に伴い、サステナビリティに関する企業情報開示への関心が大きくなる一方、林立する基準の整理や、相互に整合性のある内容への統合を求める機運も高まっていました。2020年は関係団体によるサステナビリティ情報開示基準の統合にむけた模索が数多くみられたことからも、年終盤のこのニュースは年を締めくくるにふさわしいものだったとも言えるでしょう。

 まず、サステナビリティ情報開示基準の現状を俯瞰してみたいと思います。基準には「ESG全般」をカバーするものと、気候変動などの「各論に特化」したものがあります。前者「ESG全般」を対象とする代表的な基準は、GRI、SASB、IIRCの3つでしょう。GRIが提供する GRIスタンダード は現時点で最も普及している情報開示基準とも言えるでしょう。これよりも投資家視点を強めたものがIIRCとSASBです。IIRCは企業価値を示すための財務と非財務の統合報告フレームワークを開発し、SASBは企業価値に影響を与える業種別のサステナビリティ報告基準の策定を進めてきました。この3つに加え、最近では、IFRS財団、IOSCO(証券監督者国際機構)、EUといった様々な立場のプレイヤーが、各自の立場から必要とされるサステナビリティ情報開示のガイドラインを策定しつつあります。加えて、2020年9月22日には世界経済フォーラム(WEF)傘下の国際ビジネス委員会(IBC)が、ステークホルダー資本主義の進捗を測定するためのESG指標と情報開示原則を体系的に整理した「ステークホルダー資本主義の進捗を測定する~持続可能な価値創造のための共通の指標と一貫した報告を目指して~」と題する報告書を発表しました。現状は、まさに林立もしくは乱立している状況と言っても過言ではないでしょう。

 次に「各論に特化した」情報開示基準についてです。最も注目されている各論は「気候変動」でしょう。例えば、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言、CDP、CDSB、SBTiといった手引きや基準が、気候変動のリスクが顕在化するとともに、企業への取組圧力がサプライチェーンやインベストメントチェーンを通じて強まるなかで存在感を高めています。英国では11月9日に、財務相が「2021年1月から、ロンドン証券取引所上場の主要企業を対象に、TCFD提言に沿った気候関連情報開示を義務化する」と公表しました。今後、気候変動に関わる企業情報開示が制度化されていく趨勢は不可逆でしょう。さらに、気候変動に次ぐ注目テーマは、「人権」です。2017年に定められた国連指導原則報告フレームワークは、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」に定められた企業の人権尊重責任に沿って、企業が報告を行うための包括的ガイダンスです。最新のテーマとして「自然資本」もあります。既に2017年に、企業が自然資本への影響と依存度を評価し経営判断に活かすための標準化された枠組み(フレームワーク)である「自然資本プロトコル」が発表されていますが、今年に入り、自然資源、生態系保全のリスクを、企業活動に盛り込む自然関連財務情報開示の国際的なフレームワークを構築する作業部会TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)も発足する見通しとなりました。

 企業のサステナビリティへの取り組みにおいては、法律や規制への対応といったいわゆるハードローの対応だけではなく、TCFD提言や社会的規範として定められた「ビジネスと人権に関する指導原則」のようなソフトローへの対処が前提となっています。そして、問題が深刻化していくにつれて、その内容がソフトローからハードローへと継承されていく傾向が見られます。企業の情報開示担当の方からすれば、現在の林立もしくは乱立した情報開示基準全てに対応することは、まず不可能だという印象になるでしょう。しかしながら、ソフトローへの先駆的な対応の有無が、後には長期的な企業価値に差を生むとも考えられます。企業価値を生み出す統合フレームワークを提供するIIRCと、企業価値に影響を与える観点でマテリアリティを整理したSASBの統合の発表は、一足先に走り出していた企業にとって、これまでの努力が報われると感じられる瞬間でもあったでしょう。

参考:IIRCプレスリリース(2020年11月25日)IIRC and SASB announce intent to merge in major step towards simplifying the corporate reporting system


本記事問い合わせ:橋爪 麻紀子
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