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ビューポイント No.2020-024

ポストコロナ社会に向けた「機能する政府」の7つの要素-「小さな政府vs大きな政府」の対立を超えて

2020年12月21日 山田久


パンデミック後世界の新常態がグローバルな政治経済体制に迫っているのは、市場メカニズムや民間の利益追求行動に全幅の信頼を置き、規制撤廃・小さい政府こそが最良の解、としてきた政策パラダイムの見直しである。リーマンショック以降、経済成長率が鈍化し、各国で格差問題が深刻化するなか、「インクルーシブ・グロース」というコンセプトが謳われていたが、今回のパンデミックはそうしたトレンドを決定的なものとし、公的セクターの積極的な役割に期待する流れが強まるものと考えられる。

「小さな政府」から「機能する政府」へのメガトレンドはコロナ禍以前からみられており、それが生まれてきた背景として、①個人の生活や人生のリスクのバッファーになってきた社会的な仕組みの弱体化、②世の中の変化スピードの加速と不確実性の高まりに起因する「無形資産の投資不足リスク」の増大、③デジタル・プラットフォーマーの台頭による市場競争パラダイムの変質、④地球環境問題に対する世界的な危機感の強まり、⑤中国型デジタル国家資本主義という強力な政府主導モデルが登場したことへの対抗、が指摘できる。

「機能する政府」に向かう新たなトレンドの形成にあたっての大きな問題は、歳出面の膨張が先行していることである。足元はパンデミックに伴う未曽有の経済収縮への対応であり、致し方ない面があるが、すでにパンミック以前から、わが国のほか米国や南欧諸国において財政赤字の拡大がみられていた。将来の投資につながるものであれば財政赤字を全て否定すべきものではないが、基本的にそれは将来所得の先食いを意味している。

財政赤字拡大を許容しているマクロ経済環境の一つにデジタル革命によるディスインフレがあり、その結果としての低金利の定着が大量の国債発行を可能にしている。米中対立激化に伴うスロートレードが世界の総需要を鈍化させ、グローバルに需給ギャップが残ることも超低金利を長引かせる。先進国の中央銀行の政策パラダイムの転換があったことの影響も見逃せない。インフレターゲティングの導入と中央銀行の独立性の強化は物価安定をもたらし、1990年代における安定的高成長の時代を導いた。しかし、その後、デジタル革命の進展と中国の台頭により、インフレ抑制よりデフレ回避が政策目標となり、皮肉にも2%インフレ目標がかえって中央銀行の独立性を脅かすようになっていった。

日本銀行の取り組みを嚆矢とする量的緩和政策はインフレ押し上げ効果に限界があったばかりか、収益性の低い事業の淘汰を遅らせて供給力過剰によるデフレ圧力を強め、むしろデフレの長期化をもたらした。インフレ率の高まりがみられないなか、国債買い入れが一方的に膨らみ、結果的に国家債務の膨張をファイナンスするという役割に金融政策が変質した。その過程で政府・中央銀行の一体化が進んでしまった今、改めて財政政策・金融政策の分業・連携関係、そしてその意思決定の在り方に対して、包括的な見直しが必要になっている。

否応なく政府規模は大きくなっているが、それが上手く機能するかどうかは別問題である。むしろ、政府の膨張により、経済社会が一層悪化するリスクは当然にある。政府機能のパフォーマンスを改善させるヒントは、北欧諸国の政府の在り方に求められる。それは第1に「弱者救済」よりも「弱者復活」を目指す機能が強化されていること、第2に国民の政府に対する信頼が厚いことである。

「市場の失敗」に十分に対応しつつ「政府の失敗」も避ける「機能する政府」を実現するには、1)政治体制に依存しない人類共通問題での新たな国際協調の枠組みの創出、2)業務規制・競争政策の在り方の抜本的再構築、3)労働分配の合理的決定メカニズムの構築、4)税・社会保障の抜本的改革、5)財政配分のための独立的第三者機関の設置、6)機能する官民連携の再構築、7)政府と中央銀行の連携・分業体制の再構築、の7つの改革に包括的に取り組むことが必要である。

以上の政策転換には従来の発想を大きく転換することが不可欠であり、これまで改革が遅々として進まなかったわが国で取り組むのは大きなチャレンジとなる。しかし、政策転換の方向性は、1970年代のケインズ型福祉国家が見直され、新たな市場競争・グローバル化が推進された局面と比べれば、官民の協調や労使間の合意形成など、わが国の経済・社会主体がより受け入れやすいものであるといえる。さらに、少子高齢化が進み、デフレに苦しみ、金利消滅の世界に一歩先に直面したという面で、わが国は正に「課題先進国」である。その分試行錯誤の経験値は多いわけであり、世界に先駆けて対応策を見つけることがわが国に求められる役割といえよう。

・ポストコロナ社会に向けた「機能する政府」の7つの要素-「小さな政府vs大きな政府」の対立を超えて(PDF:830KB)
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