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農産物のマス流通の新たな潮流

2020年12月08日 各務友規


農産物流通に関する消費者コミュニケーションの変化
 近年、SNS等の活用により生産者と消費者の距離が近づき、生産者自らが工夫を凝らして育てた農産物を直接消費者に販売することが当たり前になった。これらのスター生産者を囲い込み、優れた農産物を求める消費者とのマッチングを促すサービスも好調だ。一方で、従来、直接販売と対極的に扱われてきたマス流通にも変化の兆しが見えている。農産物を含む生鮮品をEC(多くの場合は既存の小売業者の電子商取引)で購入するケースが増加しているのだ。新型コロナウイルスに伴う生活様式・購買行動の変化も、この傾向に拍車をかけている。ギグワーカーを活用したラストマイル物流の急速な浸透も、今後は運ぶ対象がお店で作られた料理から徐々に拡がりを見せるはずで、この潮流を下支えするインフラになると考えられる。今回のメルマガでは、農産物のマス流通の今後のトレンドについて私見を述べたい。

モノ消費からコト消費へ -産地がメディアになる-
 モノ消費からコト消費への変遷が叫ばれて久しいが、コト消費の延長として産地の「メディア化」という方向性が考えられる。農産物のマス流通の特徴は、全量引き受けの義務を有する卸売市場を通すことにあり、集出荷業者にとっても、生産者にとっても、大きさ、形等の外見上の規格に適合する農産物の供給(生産者にとっては歩留まり)を安定させるかが重要だった。しかし、規格適合性を重視しつつも、品質を重視する消費者の選好に耐え得るよう、糖度等の品質基準によるブランド化が進んでいる。さらに、AR・VR等の新たな技術を活かし、バーチャル空間での収穫体験を提供し、疑似的に収穫した農産物を販売するサービス実証も進んでいる。豊富な体験でブランド価値を高めつつ、確かな品質の農産物を安定供給する産地は仲卸業者にも重宝される。事実、指名買いによる高い取引価格に結実している。マス流通の主な担い手となる生産組合も、Facebook、Twitter、YouTube、Instagram等のSNSで積極的な広報を行う事例が増えてきた。今後は、農産物の品質のみならず、農産物の背景にある、土壌、気候、栽培方法・履歴、生産者の作物への向き合い方、地域の暮らしや文化等の世界観の形成や、農業・収穫体験、他の観光メニューとの連動による体験価値の向上等、地域商社、生産組合、自治体、観光業者等の地域を単位とするブランディングの総力戦が鍵を握るだろう。

消費者に農産物の価値を伝える仕組みづくり
 一方で、上記のような情報を消費者に伝える技術革新も進んでいる。先述したEC化の流れは、店頭で実物を購入する場合に比べ、消費者が認識できる情報量を一気に増大させる。そのため、この情報提供の仕組みが一層重要になる。日本総研も、個々の農産物にIDを付与し、生産履歴や鮮度等の情報を可視化して消費者に届ける仕組みづくりを様々な企業と連携しながら進めている。農産物には個性があり、おいしく食べられる頃合いや栄養成分の含有度は個品ごとに異なる。IoTの躍進で、高機能センサーを活用すれば、それらの指標をサプライチェーンの全体でモニタリングできるようになった。このモニタリングの成果をシステム上で個品のIDに紐づけて一元管理すれば、いつどこで誰によって収穫された農産物が、どのような経路をたどって、どのような状態で消費者の元に届いたのかが、手元のアプリケーションで一目瞭然になる。この仕組みにより様々な効果が想定されるが、例えば一番おいしく食べられる頃合いを消費者に通知し、実際に召し上がっていただくことで、新しい消費の体験が生まれるものと期待している。

農産物のマス流通と直接販売の未来
 農産物のマス流通のリポジショニングは直接販売にも変化をもたらす。地域・産地の価値が見直されれば、翻ってその中で突出した存在には、より一層の注目が集まるようになり、直接販売を選択する農業者にも経済的に裨益が生まれるはずだ。直接販売だからこそリーチが可能な、影響力のある顧客を獲得することもできる。両者の相互のフィードバックにより、地域・産地としてのさらなる振興が望まれる。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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