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JRIレビュー Vol.1,No.85

欧州経済見通し

2020年12月24日 井上肇、高野蒼太


欧州では、ユーロ圏・イギリスともに個人消費が急速に持ち直したことで、2020年7~9月期の実質GDPは新型コロナ流行前の9割を超える水準まで回復した。しかし、10月入り後は新型コロナの感染再拡大を受け、各国は再び活動制限を強化した。雇用・所得環境の一段の悪化は避けられず、サービス関連を中心に個人消費は再び落ち込む公算が大きい。一方、今回のロックダウンでは企業活動への影響は小幅にとどまるとみられる。海外景気の持ち直しなどに支えられ、製造業活動は底堅さが残る見通しである。

ユーロ圏の財政政策はコロナ禍を受けて大きく拡大したが、2021年以降は拡大ペースが縮小へと向かう見通しである。EUの復興基金については、「法の順守」を利用条件としたことに、一部の東欧諸国が反対しており、予算承認での拒否権の発動も辞さない構えを見せている。同基金の稼働開始が遅れれば、新型コロナの打撃が大きい南欧諸国を中心に域内景気回復の足かせになろう。

金融政策については、ECBが2020年春に導入したPEPPに支えられ、ソブリンリスクが顕在化する可能性は小さい。また、2022年末にかけて需給ギャップが残るなか、低インフレの長期化が見込まれるため、金融政策の正常化は展望しにくい状況である。

政治面では、バイデン米大統領の誕生により、欧州企業の関税リスクの低下と環境関連分野での需要増が期待できよう。ただし、デジタル課税をめぐっては当面対立が継続するとみられる。Brexitについては、本稿執筆時点でも交渉が続いており、予断を許さない状況である。もっとも、新協定の締結に成功した場合でも、税関手続きの発生による物流の混乱などが2021年入り後のイギリス景気を下押しする公算が大きい。

以上を踏まえ、景気の先行きを展望すると、ユーロ圏・イギリスともに、2020年10~12月期の実質GDPは再びマイナス成長となる公算が大きい。2021年入り後は、感染が収束するにつれ活動制限が緩和されることで、景気は回復軌道に戻るとみられ、W字型の回復になると予想している。もっとも、雇用・所得環境の悪化などから、経済活動が以前の水準を回復するのは2022年後半以降となる見通しである。加えて、イギリスではBrexitの移行期間終了に伴う混乱も景気の重石になるだろう。

リスクシナリオとしては、まず2020年末に英・EU関係が合意なき移行期間の終了を迎える展開が懸念される。そうした場合、双方の経済にマイナス影響が大きい。また、2021年以降の政治イベントにより、欧州全体の意思統一を図るリーダーが不在となる可能性が指摘できる。加えて、イタリアで反EU政権が誕生すれば、同国の債務問題が再燃する恐れもある。
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