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CSRを巡る動き:ダイバーシティ&インクルージョン推進に言い訳が通用しない時代に

2020年12月01日 ESGリサーチセンター、渡辺珠子


 米国マイクロソフト社は本年10月に米国証券取引委員会(SEC)に提出した書類の中で、現CEOサティア・ナデラ氏の後任として、「高い評価を獲得した女性や人種マイノリティグループ出身者の個人を積極的に探し出し、CEO候補者のグループに加える」ことを述べた。ナデラCEOの退任が差し迫ったものではないが、世界を代表するグローバルテック企業が、ダイバーシティ&インクルージョンに向けた明確な取り組みの意思表示を行うことは稀であり、米国内のメディアでも取り上げられている。

 この意思表示の背景には、今年5月にジョージ・フロイド氏が警察官に殺害された事件に起因する抗議行動Black Lives Matter(BLM)がある。BLMは世界各地に広がり、英国を含め各地で大規模なデモが起こった他、著名人がSNSなどで抗議の声を上げている。BLMは人種差別問題であり、ダイバーシティ&インクルージョンの問題と同義ではないものの、BLMによって企業のダイバーシティ&インクルージョンに向けられる世間の目が一層厳しくなったことは事実である。米国マクロソフト社ではすでに2025年までに米国で黒人管理職とシニアリーダーの数を倍増させると宣言しているが、今回のCEO候補に関する発表によって、グローバル企業としてのダイバーシティ&インクルージョンの姿勢をより一層明確に示したと言えよう。なお同社の2019年のダイバーシティ・レポートによれば、同社の社員に女性が占める割合は29.2%で、黒人が4.4%、アジア人が33.3%、ラテンアメリカ系が6.2%である。

 では日本はどうか。日本では人種マイノリティよりも、取締役への女性登用を中心に、女性活躍がダイバーシティ&インクルージョン議論の中心である。女性の管理職登用については徐々に取り組みが進んでいるものの、先進国の中では未だに低い水準に留まっており、政府や機関投資家が日本企業の課題として指摘している。内閣府が2020年7月に発表した第5次男女共同参画基本計画では、主な先進国での管理職に占める女性の割合が30%以上であるのに対し、日本は2019年時点で14.8%と、女性の管理職などの意思決定過程への登用が不十分であることを指摘している。同基本計画ではこの状況改善に取り組むだけでなく、「指導的地位に占める女性の割合が30%を超えて更に上昇し、2030年代には誰もが性別を意識することなく活躍でき、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを目指す」と示されている。企業がより一層女性の管理職登用に取り組むことが求められている。

 女性の管理職登用に関しては、常について回る「言い訳」がある。「女性の取締役の割合を向上できないのは適切な人材が不足しているからだ」、もしくは「産休や育休で仕事を一時的に離れたために昇進・昇格のタイミングがとりにくい」などという企業からの説明である。しかしこれらがもはや通用しない時代になってきた。米国金融機関のウェルス・ファーゴのCEOが今年「従業員の多様性の目標を達成できないのは、人種的マイノリティに十分な適材がいないからだ」と発言し、世間から大きな批判を浴びるという問題が起きた。CEOはその後謝罪したが、この一件によってダイバーシティ&インクルージョンを実行するプロセスの透明性や正当性を、企業自身が明確に説明することをより一層求められることになった。冒頭の米国マイクロソフト社も、結果だけでなく登用のプロセスについて言及していることに注目したい。これらの動きには投資家も敏感に反応している。これからはダイバーシティ&インクルージョンを改善する具体的な計画や実施結果をもたない企業に対しては、投資家や運用機関がエンゲージメント等を通じてより一層の働きかけを進めるだろう。すでに日本でも、企業の取締役会などの重要意思決定機関のダイバーシティの推進を目的とする「30% Club」の日本イニシアチブである30% Club Japanが活動を展開している。できない、やらない理由を挙げる前に、実行できることを前提として「どうしたら推進できるか」を積極的に考え、行動することが当たり前とされる時代に移行していることを意識することが重要である。


本記事問い合わせ:渡辺 珠子
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