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【スマートインフラ】
コロナ禍による自動車・モビリティサービス産業への影響

2020年11月10日 程塚正史


 もう半年以上前の1月半ば、コロナ禍の震源地となった中国・武漢に行く予定があった。その10日ほど前に現地の方から「謎のウイルスが流行しているので来ないほうがいい」と言われ、不承不承ながら出張を取りやめた。そのときは正直「そんな大げさな……」とも感じていた。

 今やコロナ対策は日常の中に溶け込んできた。非常事態宣言の頃には不便に感じていたことにも慣れてきた。そろそろ、コロナ禍の影響を展望できる状況でもある。ここでは、自動車やモビリティサービスにおける変化を軸に考えてみたい。

 まず社会的な影響として、人々の意識の変化が挙げられる。マスクの着用は米欧ですら日常的になった。スパコンによる飛沫分析映像が広く公開され、至近距離にいると人間は様々なものを交換しているという不都合な真実も明らかになった。ソーシャルディスタンスという考え方や、公共空間より個室空間を選ぶ傾向はコロナ禍収束以降も一定程度続くように思われる。

 また都市のあり方が変化する。リモートワークやオンライン会議が定着し、大都市中心部のオフィス需要が減少する。それに合わせて住宅需要も都心部から郊外や地方に移る。国土開発計画のように明確な方針が示されるというよりも、需要の変化によって都市の分散傾向が確実に強まる。環境の良いエリアが好まれるようになり、これまでとは異なる生活圏が設定されるようになると思われる。

 社会的でもあり技術的な影響でもあるのが、デジタル化の進展だ。特に日本ではコロナ禍によってあまり意味のない手続きの存在が白日の下にさらされ、デジタル庁創設の動きにつながっている。日本ほどでなくても、データ活用の重要性は各国で再認識されているようだ。

 コロナ禍による技術的な変化もある。コロナテックと呼ばれる各種サービスやそれを実現する技術に注目が集まっている。例えば遠隔医療、非接触診断、無人配送などが挙げられる。それらの底流にあるのは、通信技術、HMI・センシング技術、制御技術の高度化がありそうだ。コロナ禍を経て、これらの技術の活用の幅が広がる可能性が想定される。

 以上の社会面、技術面での変化を踏まえると、自動車をめぐる3つの空間に影響がありそうだと考えられる。

 1つめは車内空間だ。コロナ禍で緊急避難的に在宅作業の一部を自家用車内で行った人がいるように、個室としての自動車に新たな価値が見いだされようとしている。間もなく通信環境は5Gになり、ディスプレイなど車内のHMI機器も充実してくる。自動車のインフォテインメントサービスが充実することで、車内空間は、そこで様々な活動ができる場として位置付けられる可能性が考えられる。

 2つめは地域空間だ。東京周辺のパン屋さんでは個包装による陳列が一般化してきたように、生鮮品や食料品をより清潔な環境で管理する動きや、それらを自宅まで届けるニーズが拡大している。巣ごもり消費の継続もあり今後さらに増加する電子商取引(EC)の宅配も加わり、ラストマイルの物流量が大きくなる。遠隔操作を含む高度な制御技術が活用されることで、域内を巡回するのに適した車両やサービスが求められる可能性が考えられる。

 3つめは道路空間だ。公共性の高いデータを汎用化して各種事業者に活用させる動きが今後広がってくる。これまでもスマートシティやスーパーシティの文脈で交通サービスでのデータ活用の有効性は指摘されているが、さらにその動きが加速すると考えられる。路車間連携を前提にした自動運転や信号制御、BRTシステムの利便性向上が想定される。

 変化はじわりじわりと進むため、現在進行形での変化を都度、指摘するのは難しい。しかし10年後に振り返ってみれば、2020年が変曲点だったと言われるだろう。例えばここで挙げた3つの空間のあり方が、コロナ禍を機会に変えると考えられる。コロナ禍に生きる私たちには、その変化を迎えに行く準備が求められている。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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