RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.20,No.79
米中対立下でASEANとの関係拡大を図る韓国ー新南方政策でベトナム偏重は変わるのか
2020年11月10日 向山英彦
近年厳しい経済環境が続く状況下、韓国企業はイノベーションを進めて次世代事業に力を入れる一方、過度な中国依存の是正を図り、ベトナムでの事業を拡大してきた。文在寅政権も、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国・インドとの関係を強化する新南方政策を打ち出した。
新南方政策はASEAN諸国・インドとの関係を、朝鮮半島情勢に影響を及ぼす4大国(アメリカ、中国、日本、ロシア)と同じレベルに引き上げることを目標に、交通・エネルギー、水資源管理、スマートシティ、次世代自動車など、各国が必要とする分野での協力を拡大していく。
韓国とASEAN諸国との経済関係をみると、総じてベトナム偏重になっている。対ASEAN輸出額に占める割合(2019年)は、ベトナムが半分を占めているほか、海外建設受注や直接投資、ODA(政府開発援助)供与の累計額で最多になっている。
ベトナムでは韓国の主要財閥が事業を進めて、「ミニ韓国」の様相を呈している。近年注目されるのは、現代自動車がベトナムでノックダウン生産を開始し、シェアを上げていること、金融分野での進出が広がっていることなどである。
直接投資の動きや各種調査結果から判断すると、韓国企業がベトナムを最重視する姿勢は当面続くものと予想されるが、ベトナム偏重のリスクに注意する必要がある。一つは、ベトナムとアメリカとの間で通商摩擦が生じる可能性であり、もう一つは、新南方政策を進めるにあたり、よりバランスのとれた外交が求められることである。
このため、ベトナムで事業を行っている韓国企業は予防的にベトナムからの輸出先を多角化する必要があり、新南方政策がその契機となりうる。ベトナム以外の国との関係を拡大するためには、交通・エネルギー、水資源管理、スマートシティ、次世代自動車など各国が必要とする分野で協力関係を築けるかが鍵を握る。