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【農業】
地域全体でもうかる農業を実現する“V-farmers”

2020年10月27日 前田佳栄


 日本総研では、全国の農村地域の活性化に向けた様々なプロジェクトを展開している。農村の活性化に向けてはさまざまな課題があるが、その一つが人材面だ。近年の農業ブームもあり、新規就農者や地方への移住者は多く存在する。Uターン・Iターンで農業を始める人、都会でのサラリーマン生活から農村でのゆったりした暮らしに憧れる人、最近ではコロナウイルスの影響により、観光業や飲食業から農業に転向する人も現れている。問題は、せっかく農村に来てくれたそのような貴重な人材が農村で十分に活躍することができず、早期にリタイアしてしまうことだ。日本総研では、農業を志すすべての人たちが、「魅力ある農業」「みながもうかる農業」を実現できることを目指し、“V-farmers(Virtual farmers)プロジェクト”を立ち上げた。本稿ではその概要をご紹介したい。

 みながもうかる農業への第一歩は、作物の安定生産に必要な「作るワザ」を身に着けることだ。作物の基本的な栽培管理手法や農機・肥料・農薬等の使い方の学習に加え、コストを下げるワザ、収量を上げるワザ、美味しさ・見た目・栄養素等の品質を上げるワザも経営の視点では重要となる。実際の農業現場では、天候の変化や、病害虫の発生等、日々目まぐるしく状況が変わる。経験が少ない場合、その日、どのような作業を優先すべきなのか的確に判断・対処できず、結果的にうまく栽培できないことが少なくない。安定生産に向けた現場のマネジメント能力の獲得が重要となる。従来の農業では一人前になるまでに10年を要するともいわれており、新規就農者が一つ一つ経験をしながら学んでいくのは非常に大変だった。しかし、こうした状況は近年のAI・IoTを活用したスマート農業の普及により改善されつつあり、農業のデジタルトランスフォーメーションによるさらなるチャンスも広がりつつある。

 こうした現場での対処方法を最もよく知っているのが、経験のある農業者や地域の営農指導員だ。V-farmersでは、作業中の動画やつぶやき(ワザの解説)を用いて、農業者や営農指導員がもつワザを見える化し、これらを体系的に整理してアプリ経由で学習・検索できるようにすることが可能となる。こうしたワザを地域で共有することによって、地域全体の農業生産技術を底上げすることができる。また、動画だけでなく、環境センサー・作業日誌・農機の稼働ログとの連動、農業データ連携基盤(WAGRI)との連携により、多面的なデータを収集していくことも計画している。蓄積したワザをAI・ビッグデータ解析によって高度化していくことで、地域に合った新たな農法の開発や、農業者に対してアプリ経由でのプッシュ型での作業のアドバイス等が実現する。将来的には、V-farmersが司令塔となって各種農機をコントロールすることで、作業の完全自動化を達成する計画だ。

 ただし、安定生産ができるだけでは、農業経営はうまくいかないことに注意が必要だ。儲かる農業への第2歩は、「売るワザ」の獲得だ。経験のある農業者でも作るのは得意でも売るのは苦手という人は少なくない。V-farmersは、高く売るためのブランディングの方法や、売り先とのネットワーク等を地域で共有することで農業者をサポートする。V-farmersを核に、農業者だけでなく、自治体やJA等、地域のプレーヤーが協力してマーケティングに取り組むことで、地域全体でもうかる農業を実現することができる。V-farmersは「作るワザ」「売るワザ」の両面から地域の農業の競争力を高めるバーチャルなサポーターなのだ。

 この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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