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JRIレビュー Vol.11,No.83

観光DXの可能性ー最先端ICTによる観光ビジネスの革新

2020年10月27日 高坂晶子


最先端のICTを活用して製品・サービスやビジネスモデルの革新を図るDX(デジタル・トランスフォーメーション)の重要性が広く指摘されている。観光分野についても例外ではないが、わが国では観光DXへの関心はいま一つである。他方、世界的には多くの事業者が取り組みを強めており、わが国観光の競争力向上に向けてDXは喫緊の課題といえる。新型コロナウイルス感染症によって深刻なダメージを受けている地域経済を立て直すためにも、DXによる観光ビジネスの生産性向上や高付加価値化は必要不可欠である。

観光DXに活用される主な要素技術として、5G、Wi-Fi、IoT、位置情報、生体認証、仮想現実・拡張現実、人口知能(AI)、ロボット技術、ビッグデータ、自動運転が挙げられる。これらを活用し、多様な観光ルートの選択肢の提供とナビゲーション、大量の高速データ処理による予測と意思決定支援、ユーザー像の描出とパーソナル対応等の実現が可能になる。

実際の観光地の事例から、観光DXが活発な分野として、ビジネス支援、観光客支援、プロモーション、コンテンツ、観光地経営の5分野を挙げることができる。これらの分野においてICTを積極的に導入することにより、適切な情報を素早く提供し、観光客の満足度を向上させるだけでなく、観光ビジネスの面から効率性や生産性を高めることが期待できる。

従来、観光分野におけるICTの受益者はもっぱらビジネス関係者であったが、今や観光DXのメリットは観光客や地域住民・行政にも及び始めた。社会的課題の解決に観光DXを役立てている例として、オーバーツーリズムに悩んでいた京都市では、観光スポットにおける人出と過去のデータを組み合わせてAIで分析し、渋滞予測を提供して消費者の行動変容(行く先や訪問時刻の変更)を促している。また、新型コロナ禍で「新しい旅の形」が求められるなか、オンラインツアーで消費者との接点を保ったり、非接触型サービスによる高度な衛生管理を実現している例が、各地で始動している。

地域振興に取り組む自治体やDMOにとっても観光DXは重要課題であるが、導入に向けたハードルも高い。まず、個人情報に対する権利意識が高まりをみせる一方で、データの活用範囲やその社会的影響が広がりつつあるため、個人情報保護のルールに則った対応が求められるが、その体制づくりは十分とは言えない。加えて、関係者において観光DXの意義や効果に対する理解が不足しており、公的支援を使いこなすことができないのが現状である。また、政府においても、依然として従来のインバウンド重視の助成方針からの転換に至っておらず、自治体に対して観光DXに必要な基盤整備の支援策を整えることができていない。

新型コロナの感染拡大により、移動と人の交流を基本とする観光は大きな打撃を受けたものの、海外アンケートでは、わが国は観光再開後に行きたい国の上位にランキングされており、中期的にはインバウンド需要の回復にも期待がかかる。地方自治体やDMO、関係事業者は、直ちに観光DXに取り組み、世界標準の受け入れ態勢を構築していくことが求められる。
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