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CSRを巡る動き: 地域金融機関におけるSDGsの現状と今後求められる対応

2020年11月02日 ESGリサーチセンター、長谷直子


 地域金融機関でSDGsの取り組みを推進しようとする動きが広がっています。全国地方銀行協会に所属する64行のうち、約7割にあたる46行が金融サービス業を通じてSDGsへの貢献を宣言する「SDGs宣言」を自行のホームページで公表しています(2020年9月時点)。第二地方銀行協会に所属する銀行でも半数近くがSDGs宣言を公表し、金融機関によるSDGs宣言数はここ数年で急増しています。

 こうした動きの背景には、国による政策の動きが大きく関係していると考えられます。金融庁は、2018年6月に金融庁として初めてSDGsに焦点を当てた方針「金融行政とSDGs」を公表しました。その中で「SDGsは、企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大を目指すという金融行政の目標 にも合致するものであり、金融庁としてもその推進に積極的に取り組む」としています。2020年1月にはその内容が更新され、「地域金融機関による顧客との『共通価値の創造』」に関する支援を促進していくこと」が掲げられました。令和2事務年度金融行政方針にも「サステナブル・ファイナンス」という項目が新設され、「金融機関においては、資源配分機能や市場機能の活用といった金融面の手法を通じて、環境問題や社会問題の解決に資する付加価値を生み出していくことが期待される。金融庁としても、サステナブル・ファイナンス等に関する我が国の企業及び金融機関の取組みを促し、国際的な議論にも貢献していく」という方針が示されました。
 また、内閣府では2019年に、地域金融機関がSDGsに取り組む地域企業を支援し、機関投資家や金融機関に働きかけて民間資金を積極的に地域に呼び込む枠組みを「地方創生SDGs金融フレームワーク」として掲げています。今後、より多くの自治体がSDGsの取組促進に向け、地域金融機関と共同で地域の資金循環を促す仕組みを検討していくことでしょう。
 環境省でも2020年4月に、地域金融機関が、環境・社会的課題の解決に資する技術力や製品・サービスを有する地域企業への支援を促進するための「ESG地域金融実践ガイド」を公表しました。これによって地域金融機関の新たな案件発掘や顧客開拓だけではなく、長期的にみて地域の経済発展につながる「地域循環共生圏」の構築を目指しています。

 国の動きを受け、国内銀行業界にも変化が出始めています。2018年3月、全銀協が銀行役職員の行動規範として定めている「行動憲章」を改定し、持続可能な社会の実現や社会的課題の解決に向けた取り組み及び期待される役割等を明確化することを銀行に対して求めました。併せて、全銀協におけるSDGsの推進体制を公表し、今後の主な取り組み項目を公表しています。金融経済教育の推進、フィンテックの活用、TCFD(金融安定理事会(FSB)により設置された気候関連財務情報開示タスクフォース)への対応、ジェンダー・人権への配慮、地方創生、高齢者への配慮など幅広い取り組みがカバーされ、これに沿う形で毎年「全銀協SDGsレポート」として、主な活動状況や会員銀行の取り組み事例がまとめられています。国連環境計画金融イニシアティブは2018年11月に「責任銀行原則」を提唱し、これまでメガバンクが中心に署名してきましたが、2020年2月には地方銀行として初めて、滋賀銀行がこれに署名しました。こうして、国内銀行業におけるSDGsへの関心は徐々に高まり、地方銀行でも続々とSDGs宣言を公表する動きにつながっていると考えられます。

 一方、実際に地域金融機関の方に話を伺うと、SDGsへの貢献に向けた具体的な金融商品の開発についてはまだ模索中だという声を多く聞きます。具体的な金融商品を開発するには、普段顧客と接し、顧客のニーズを把握している営業担当者などが顧客ニーズに即して商品開発を行うことが有効です。しかしながら、営業担当者がSDGsについてきちんと理解し、顧客に対してもその意義を十分に説明できているかというと、現状ではそうではないのが実態と考えられます。このような状況では、各行でSDGs宣言を表明したは良いものの、具体的な取り組みのアイディアは出てきにくいでしょう。

 SDGsは、地域における働き手の不足や災害被害の増加など、地域の課題にも深く関連しています。地域金融機関には、自治体等と一緒になって地域が抱える課題解決を通じ、地域企業の付加価値創出や地域経済を支える役割が期待されているのです。SDGsをきっかけに地域企業の企業価値が向上すれば、地域金融機関にとってのビジネスチャンスも増えるはずです。そうなれば金融機関自身の成長戦略や、持続可能性の向上にもつながるでしょう。今後、地域金融機関は経営層だけでなく、営業などの第一線で活躍する行職員も含めて一人ひとりがSDGsに取り組む意義を腹落ちして理解し、地域企業に寄り添って、企業価値向上のストーリーを一緒に考えていくことが求められると考えます。


本記事問い合わせ:長谷 直子
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