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【次世代交通】
地域公共交通の利用促進施策と新たな可能性の模索

2020年10月13日 水澤 杏奈


 新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークが拡大するなどして、人々の移動の機会が減ったことで、公共交通事業者では輸送人数の減少等の影響が大きく出ています。
 国土交通省の調査によると、8月の輸送人数は前年同月比で乗合バスで26.7%減、タクシーでは42.3%減となりました。また、運賃収入で見ると、30%以上減ったという乗合バス事業者が全体の46%、タクシー事業者が全体の69%を占めており、依然として厳しい状態が続いています。
 国は、この状況を打開すべく公共交通機関の利用を促す新たな取り組みを開始しており、地域一体となった取り組みにも広がっています。以下では2つの施策をご紹介します。

 一つ目は、「日本版MaaS推進・支援事業」の取り組みです。地域や観光地の移動手段の確保・充実を図ると同時に、公共交通機関の維持・活性化を進めることが狙いです。今年度は38事業がモデル事業として選定され、全国各地で実装を見据えたMaaSの実証実験が実施されます。通勤等の定期的な移動だけでなく、遊びや買い物等の外出機会も少なくなった現状で、移動需要の喚起は一層、重要性を増しています。そこで、MaaSの活用が期待されました。
 各種データを統合し情報発信やサービス提供することができるMaaSの仕組みは、安全面に配慮した移動や施設の利用を可能にすることができます。例えば、交通機関や施設の混雑情報をもとに比較的空いている時間に来店・移動を誘導するというアイデアがあります。クーポンを発行する等のプランを提示することで、利用者には快適でお得な移動や施設利用を実現し、事業者には落ち込んだ施設利用・移動需要を回復するきっかけを提供しようとしています。
 また、MaaSの活用により、利用者に地元の魅力を再発見してもらうという事例もあります。例えば、地元の意外と知られていなかった魅力的なスポットと三密を避けた移動手段とをセットで提案することで、近場で味わえる新たな非日常の体験という機会を創出しようという試みもなされています。
 このように目的地と連携して移動機会を創出するMaaSの取り組みが、今後の交通需要回復の切り札だと期待されているのです。そこでのカギは、地域一体となって取り組みを進めることです。業種・業態の既存の枠組みを取り払って、幅広い分野で情報連携が進むことが重要です。
 ちなみに、日本総合研究所が神戸市北区で実施する「まちなか自動移動サービス」事業も本事業に採択されました。今年度の取り組みにぜひご注目ください。

 施策の二つ目は、タクシー事業者による飲食物のデリバリーを巡る規制緩和です。コロナ禍で飲食物のデリバリーのニーズが増加したことを踏まえ、タクシーによる配達・出前を認めるもので、当初は9月末を期限にする特例措置でしたが、引き続きニーズが見込めるものとして、10月以降も恒久的な規制緩和が実現しました。10月以降も配達・出前を行うには再度、事業者としての申請が必要ですが、9月4日時点で全国で約1,700社が許可を受けています。タクシー事業者に対して配達コストの一部を補助する制度を構築している自治体も現れており、地域一体で飲食業と交通事業者の双方を応援しようという取り組みとして注目されます。今後は、例えば飲食店や交通事業者の稼働に比較的余裕があるお昼を少し外れた時間に利用すると、料金の一部が割引されるなどのアイデアも有望視されるでしょう。恒久的に許容されるビジネスモデルとなったことを踏まえ、飲食店側の供給と消費者側の需要を効率よくマッチさせる仕組みの構築が重要となってきます。

 今回のコロナ禍で、公共交通機関の利用が確かに減ったという方も多いと思います。ただ、今後高齢化社会が進展し、免許返納も増加していく中で、自家用車に頼らない移動手段の確保が重要になってきていることは、コロナ禍以前から指摘されていました。交通事業者に営業や路線を維持してもらわなければ、いつか困ったときに利用しようと思っても、もはや手遅れという現実が、一層近づいてしまったということができます。改めて、一人ひとりが公共交通機関を様々な形態で利用し続けていくことが重要であり、公共交通事業者も自治体や企業と連携し新しい生活様式に対応するチャレンジを始めています。それらの取り組みを知って、乗って、使って、応援をしていきたいと思います。

出所
(1)国土交通省 新型コロナウイルス感染症に関する国土交通省の対応
(2)国土交通省 新型コロナウイルス感染症による関係業界への影響ついて(令和2年8月31日時点まとめ)
(3)国土交通省 地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律について
(4)経済産業省 令和2年度スマートモビリティチャレンジの実証地域を選定しました
(5)国土交通省 日本版MaaSの展開に向けて地域モデル構築を推進!~MaaS元年!先行モデル事業を19事業選定~
(6)国土交通省 10月以降もタクシー事業者によるデリバリー・出前が活用できます!~タクシー事業者による食料・飲料に係る貨物自動車運送事業法上の取扱いを整備~
(7)時事通信 タクシー宅配を恒久化 コロナ禍の需要増でー国交省
(8)船橋市 タクシーを活用した飲食店支援事業(ふなばしデリタク)
(9)星野リゾート マイクロツーリズム


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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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