JRIレビュー Vol.12,No.84 中小企業優遇税制の意義と検討課題-求められる選別基準の再考 2020年10月06日 蜂屋勝弘中小企業向けの租税特別措置の一部が、今年度末に適用期限を迎える。期限が終わると、中小企業の法人税負担は8.3%増加すると推計され、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で大きく落ち込んだわが国経済にとって、相当のマイナス要因になりかねない。厳しい経済状況を踏まると、来年度の税制改正に向けた今後の議論のなかで、適用期限の延長について検討される可能性は十分に考えられる。本来公平に課されるべき税負担において、中小企業を優遇する理由として、経済におけるプレゼンスが大きいことに加え、①規模の経済が働かない、②人材が集まりにくい、③資金調達コストが高くなりがち、といった中小企業特有の事情から、大企業に比べて生産性や収益性が低くなる傾向にあることが指摘されている。中小企業向けの税制優遇措置は諸外国でもみられる。それらは、主に、①収益増への直接的支援、②研究開発投資や人的投資への後押し、③納税に係る事務負担の軽減、④事業継承に係るコストの軽減といった政策効果を狙って導入されている。優遇措置の問題点として、①将来性のない企業を支援してしまう可能性、②企業が業容の拡大に慎重になる可能性、③意図的な負担回避行為や不正申告を誘発する可能性が国内外で指摘されている。また、適用対象を基本的に資本金によって選別しているわが国の場合、大企業並みの所得を得ている中小企業まで優遇している可能性があり、選別方法の適切さが問われている。インターネットやAI技術などのICTの発達、国境を越えたサービスの提供など、ビジネス環境の変化を捉えることで、中小企業の生産性が大企業を上回る可能性は十分あり、その場合、中小企業のみを優遇する意義は希薄になると考えられる。また、そもそも中小企業の生産性が低い原因が、企業規模が小さいことにあるのならば、本来取り組むべきは、企業規模の拡大に向けた支援である。ビジネス環境や産業構造の変化が見込まれるなか、中小企業に限って税負担を優遇する意義を改めて問い直すとともに、優遇対象の選別基準の再検討が求められる。 関連リンクJRIレビュー2020 Vol.12,No.84・With╱Afterコロナにおけるスタートアップの展望ー「ラクダ」「シマウマ」モデルの台頭と地域分散の可能性(PDF:1419KB)・中小企業優遇税制の意義と検討課題-求められる選別基準の再考(PDF:1209KB)・「求められる「高等教育と就業の接続」の改革の方向性ー産官学一体で「日本版DA(在学中訓練)」の導入を(PDF:1542KB)