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アジア・マンスリー 2020年10月号

脱「中国依存」は本当に進むのか

2020年09月29日 三浦有史


新型コロナウイルスの感染拡大を機に、サプライチェーンの見直し、とりわけ脱「中国依存」の議論が盛んである。しかし、机上で語られるほど脱「中国依存」は簡単には進まず、合理的ともいえない。

「逆回転」始めるグローバル化
新型コロナウイルスの感染拡大は、効率性を重視するグローバルなサプライチェーンの脆弱性を露わにした。感染源となった湖北省は広東省、吉林省、上海市に次ぐ中国第4の生産台数を誇る自動車産業の集積地であるため、武漢市をはじめとする同省の主要都市が封鎖された影響は瞬く間に世界中に伝播した。中国から部品調達が滞ったことにより、わが国はもちろん韓国、欧州の自動車メーカーも一時的に生産調整を余儀なくされたのである。

これを受け、わが国はもちろん欧米諸国でもサプライチェーンの見直しが喫緊の課題に浮上した。見直しにおいては、サプライチェーンは長いほど寸断リスクに脆弱であることから、生産拠点を国外に移すオフショアリングから、国内に戻すリショアリングにかじを切り、サプライチェーンを短くすべきだという意見が支配的となっている。グローバル化が「逆回転」を始め、コロナ後の新しいサプライチェーンをかたちづくる、という主張には説得力がある。

日本経済研究センターと日本経済新聞社が9月に実施した上場企業で働く3,000人を対象にした調査では、59.6%が政府の国内生産回帰政策を支持しているとした。また、41.2%が生産拠点としての中国の重要性が低下するとみていることも明らかになった。リショアリングは必然的にグローバルなサプライチェーンの中心にある中国の役割を見直すことにつながることから、脱「中国依存」の動きが加速すると考えるのは当然である。

国内回帰と分散化の行方
リショアリングは本当に進むのであろうか。わが国政府は、4月、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策を発表し、生産拠点の回帰を含む国内の生産能力増強を積極的に支援するとし、不織布マスクなどが国内で生産されるようになった。しかし、だからといって全てのマスクが国産に切り替わるわけではない。

わが国は2020年4月に前年同月の10倍、5月には13倍のマスクを輸入し、そのほとんどが中国産である。2019年時点で国産比率は3割程度と見込まれるため、脱「中国依存」が順調に進んでいるとはいえない。ドイツでは国内マスクメーカーが相次いで撤退し、国産化が失敗したとされる。国内メーカーには安価な中国製品との競争を前提とした戦略が求められる。

緊急経済対策は生産拠点の国内回帰だけでなく、多元化も支援している。生産拠点が1カ所に集中するとサプライチェーンが脆弱になるため、分散させようというものである。そこでは具体的な国名が記されているわけではないが、中国に集中した生産拠点をASEAN諸国などに分散させようという狙いがあるのは明らかである。

分散化の動きは対中関係が悪化の一途にある米国においてより鮮明である。下図は、横軸に米国のアジア主要国・地域からの輸入の前年比伸び率を、縦軸に翌年の輸入伸び率をとり、それぞれをプロットしたものである。点線より上にあれば当該国・地域からの輸入が増えたことを意味する。バブルの大きさは、輸入増減(濃色は減少、薄色は増加)の規模を表す。2019年は対中輸入が前年比▲16.2%、876億ドル減少する一方、ベトナムからの輸入は同+35.5%、175億ドル、台湾も同+18.6%、85億ドル増えた。これは対米輸出拠点がベトナムと台湾に分散した結果と理解することができる。

しかし、分散化は必ずしも脱「中国依存」が進んだことを意味しない。経済協力開発機構(OECD)の付加価値貿易統計によれば、ベトナムの対米輸出を支える繊維製品や電子機器は輸出額の2割相当が原材料や部品として中国から輸入されていることがわかる。米国の対中輸入の減少は中国への依存度が低下したことを意味する、とは言えないのである。しかも、2020年1~6月はベトナムと台湾からの輸入が大幅に鈍化しており、新型コロナウイルスの感染拡大が関税率引き上げほど分散化を促すインパクトを持っていないこともわかる。

脱「中国依存」が進まない理由
脱「中国依存」は次の理由から必ずしも合理的とはいえず、期待されるほど進まない可能性がある。サプライチェーンの見直しは、これらの問題を精査したうえで慎重に進める必要がある。

第1は、中国の産業集積は非常に厚く、同国を代替しうる国が見当たらないことである。在中国欧州商工会議所のヨルグ・ブトケ会頭は、5月、中国は産業集積、人材、技術、インフラの面で突出した存在であるとし、分散化のメリットが強調されるなかで、敢えてデメリットが大きいことを強調した。

第2は、市場としての中国の重要性は変わらないことである。国際通貨基金(IMF)の6月の世界経済見通しによれば、2020年は先進国の成長率が軒並みマイナスに転じるなかで、中国は+1.0%の成長を維持する。規模と伸びしろという点で中国は欠かせない市場である。

第3は、感染再拡大により中国の生産機能が損なわれる可能性が低いことである。中国は感染拡大の起点となったものの、感染拡大抑制に最も成功している国といえる。感染症は地震や洪水のように生産設備や輸送インフラの物理的毀損を伴うものではないため、マスクの事例でみたように規模、効率性、機動性といった生産面における中国の強みは今なお失われていない。
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