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ウィズ/アフターコロナ時代のグループ経営の在り方

2020年09月14日 高津輝章


■コロナ禍で増す「グループ本社機能」の重要性
 コロナ禍は、あらゆる事業領域に対して大きな影響を与えている。これらの影響は各事業の置かれている環境によって異なり、マイナスの影響が大きい領域(例:観光、宿泊、交通、外食等)もあれば、プラスの影響が大きい領域(例:スーパー、イーコマース、その他巣ごもり消費関連等)もある。また、決定的な打撃は受けていないものの、今後、働き方の見直しやデジタルシフトの加速など、事業の変革を迫られる領域も多い。
 こうした状況に対応する中で、複数の事業を展開している企業グループ、あるいはグローバルに事業を展開している企業グループにとっては、グループのかじ取り役である「グループ本社機能」の重要度が増すと考えられる。
 グループ本社の主な役割は、「事業運営から一歩離れた客観的な立場」から、グループ全体の経営方針を策定し、その進捗を管理するとともに、各事業への経営資源の配分や、事業間のシナジー創出・新たな領域への進出を検討することである。コロナ禍で各事業の置かれた立場に大きな変化がある今だからこそ、マクロ環境や各事業の置かれている立場を冷静に見極め、グループの進むべき方向性やそのために資源を配分すべき領域を決定することの重要性が増しているのではないか。これまで「事業の本社」と「グループ本社」が一体となっていた企業グループにおいては、コロナ禍を契機に、グループ本社の明確化と、それに伴ってグループ経営組織構造の再構築や取締役会の役割・構成の見直しを進めていくことが求められるであろう。
 なお、ここでいうグループ本社は、いわゆる「グループ会社管理部」ではない。グループ本社がマネジメントするのはグループ全体の経営であり、コミュニケーションは各子会社ではなく各事業(の責任者)と行う。その点では、「グループ経営の二層化」という考え方を押さえておく必要がある。それぞれの事業(の責任者)は、その事業領域の中でグループ経営、すなわち当該事業に属するグループ会社を含む事業連結ベースでの経営を行っており(一層目のグループ経営)、それらを束ね、グループ全体最適を追求していくのがグループ本社(二層目のグループ経営)、という捉え方である。

■グループ経営組織構造の再構築
 グループ本社を明確化する過程では、コーポレート機能の分化が進むことになる。これは、経営企画、人事、財務などの各本社機能をグループレベルの機能と各事業レベルの機能に分け、グループレベルの機能はグループ本社に、事業レベルの機能は事業部門に配置することを意味する。グループ本社が明確化され、コーポレート機能の分化が進むと(あるいはその方向性を志向すると)、必然的にグループ経営組織をどのように設計するか、という議論が始まることになる。この際、取り得る選択肢としては大きく二つである。
 一つは、既存の経営体制(法人格)を大きく変えずに、グループ経営組織を再構築する、というものである。この場合、グループ経営の二層化を組織上明確にするため、多くの企業ではいわゆる「カンパニー制」と呼ばれる仕組みを導入する。これは、グループ本社を既存の中核事業会社(親会社)の中に設置したうえで、それぞれの事業部門を疑似的に分社(カンパニー化)することで、各事業部門は社内カンパニーとして自身の事業に関する本社機能と権限・責任を有する体制にするというものである。なお、カンパニーはその事業に属するグループ会社を含む、事業連結ベースでの業績の管理と経営責任を負う体制となっていることが一般的である。ただし、カンパニーの本社機能やカンパニーの責任者は必ずしも中核事業会社(親会社)内に置く必要はなく、例えばAカンパニーとBカンパニーの本社機能と責任者は親会社の中(疑似分社)、Cカンパニーの本社機能と責任者はC事業を営む既存のグループ会社に置く、といったケースもある。この場合、親子の資本関係にかかわらず、原則としてA~Cの各カンパニーはグループ経営推進体制上では並列の関係となる。
 もう一つは、法人格の見直しを含め、グループ本社組織の明確化と各事業の推進体制の再構築を進める、というものである。グループ本社を法人格含め明確に分離し、持株会社(ホールディングス)としたうえで、持株会社の傘下に各事業会社をぶら下げる、という組織体制がこれに該当する。カンパニー制と狙い・目的は大きく異なるものではないが、法人格が分かれることで、よりその狙い・目的を純粋に追求することができるというメリットがある。グループ本社とグループ内の中核事業が同一法人内に同居する形でグループ経営の二層化を図った場合(一つ目の選択肢である社内カンパニー制の導入が該当)、どうしても中核事業の論理に左右される、ということがよくある。例えば、本来であれば中核事業ではない別の成長事業に資源配分を行うべきであっても、中核事業部門への配慮等の要因でそうした意思決定が行われない、といったケースである。グループ本社と事業部門で法人格を分け、持株会社体制とすることは、グループ本社が「事業運営から一歩離れた客観的な立場」であることを明確化するという観点で有効な場合も多いのである。

■グループ本社の取締役会の役割・構成の見直し
 グループ経営組織構造の再構築と合わせて、グループ本社の取締役会の役割・構成の見直しを進めるケースも多い。カンパニー制においても、持株会社体制においても、各事業領域へ権限と責任を委譲し、グループ本社は客観的な立場からグループ全体の経営方針を策定してその進捗を管理するとともに、各事業への経営資源の配分等を行うという点は変わらない。そうした体制を構築した場合、取締役会もより「監督型」の役割となることが想定される。すなわち、取締役会はグループの経営方針を示すとともに各事業のモニタリングや評価、指名・報酬の決定、グループCEO等のサクセッションプランの監督、リスクマネジメント体制のチェック等を行うことが主たる役割となり、個々の事業の詳細な業務執行に関する意思決定は行わない形となる(法定の決議事項を除く)。
 こうした監督型の取締役会においては、従前のオペレーション型の取締役会とはその構成を見直すことも必要である。オペレーション型の取締役会においては、取締役の大半は執行部門出身者の業務執行取締役であり、その中に一部社外取締役などの外部の目を入れる、という考え方であった。監督型の取締役会では逆に、取締役は基本的に非業務執行の取締役(社外取締役を含む)中心で構成されており、グループCEO、CFOなど経営陣の一部が取締役を兼ねる、という考え方となる。

■コロナ時代を生き抜くグループ経営
 コロナ収束後も当面不透明かつ低成長な時代が続くことが想定される中、経営体制もそれに対応し、進化する必要がある。個々の事象や短期的・急を要する事項への対応も当然重要であるが、企業グループの永続性を担保する上では、より客観的・中長期的な視点に経った経営を行うことができる体制を構築することが重要である。そのポイントは、各事業レベルの経営とグループレベルの経営を分けて捉え(グループ経営の二層化)、グループ本社機能を明確化し、カンパニー制や持株会社体制への移行などグループ経営組織体制を再構築するとともに、必要に応じてグループ本社の取締役会の役割・構成を見直すことである。
以 上


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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