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ビューポイント No.2020-019

新政権の経済政策課題ーポスト・アベノミクスのトータル・パッケージ

2020年09月10日 山田久


安倍首相(自民党総裁)の後継は、党総裁選を経て今月16日にも召集される臨時国会で選出される見通しである。新型コロナウイルス感染症の流行、米中対立の激化をはじめとする世界情勢の不安定化、落ち込む景気と雇用情勢の悪化、累増する国家債務等々、新政権はかつてない逆風のなかでの船出となる。

安倍政権での感染症対応は、全体の方向性が定まらず、行き当たりばったりであった印象が強い。①治療法の確立・ワクチン開発などの医学的対応、②活動制限による経済的被害者への生活支援、③感染防止に効果的な社会経済活動の手順の不断の改善、などに継続的・包括的に取り組むことで、感染拡大抑止のもとでの経済活動の漸進的かつ着実な回復を、目指すほか道はない。新政権には、改めて感染症学の専門家と政治との役割分担を明確化したうえで、知事との連携を強化しつつ、国民への説明責任を強化すること求めたい。

安倍首相在任中の対外関係を振り返ると、トランプ大統領との良好な関係や長期政権であったことがプラスに働いた面が大きく、新政権にとって外交・通商政策は大きなチャレンジになる。日本は米国との良好な関係の維持が生命線になるが、わが国としては、米国の国際協調路線への復帰を期待しつつ、先進各国と連携し、国際機関を活用したグローバル協調を進めることの一翼を積極的に担うべきである。中国との投資・貿易関係は、安全保障や事業継続の観点では是々非々のスタンスを示しつつ、民間レベルでの交流促進は進めるべきである。地域別にとりわけ重要になるのは東南アジア各国との関係で、一層の関係深化に向けて貿易・投資・人材の各レベルでの交流を進める必要がある。

2%インフレ実現の切り札として実施された日銀の超緩和政策は、安倍政権後半期には事実上の財政赤字のファイナンスを通じて巨額の政府支出を支え、政府と一体となって財政政策を支える役割を果たすものに変質した。未曽有の国家債務の累増には危機感を持つ必要がある一方、公的債務を国内の民間資金でファイナンスできる状況が続く限り、日銀が長期金利をコントロールできる状況は継続され、財政破綻は免れうる。コロナ禍にあるとはいえ、直ちに財政健全化を最優先しなければならないほど、追い込まれているわけではなく、なお中長期的な視点から戦略的に考える余地はある。

グローバルな産業立地競争の激化・デジタル革命による寡占の進行により、政府の役割を小さくして市場原理に任せれば自ずと経済成長やその果実の分配が上手く行くという時代は終焉した。中間層の解体が進むなか、政府機能の強化が求められているが、必要なのは「敗者救済」のための後ろ向きの政策ではなく、「敗者復活」のための前向きの政策である。歳出の「規模」は維持することでマクロ的なデフレ圧力を回避しつつ、歳出の「構造」を大きく見直すことで、政府支出の生産力効果を高めることを目指す一方で、歳入の「構造」も見直して、成長促進的なものに変えることが重要である。

歳出・歳入の抜本的な改革を推し進めるにあたって、現行の仕組みのもとでは限界がある。財政民主主義が大原則であるもと、民主主義の負の側面として、短期的な視点からの現世代へのバラマキを行い、後世代に付け回しをしてきたのが実情である。これを繰り返さないためには、今まさに国難にあることを直視し、超党派で中長期の経済・財政の姿を議論する専門家・有識者会議を設置し、経済成長と財政再建のバランスに関する国民的合意の形成に着手すべきである。

ポスト・アベノミクスの経済・財政政策の成否は、最終的には成長戦略の成否に帰着する。デフレ脱却も財政再建も、詰まるところは経済成長率が高まってこなければ達成できず、それなしでは国民生活水準の低下が避けられない。安倍政権が賃金の持続的引き上げを重要な政策目標として位置づけ、労働市場改革に継続的に取り組んできたことは高く評価されるべきである。労働への適切な分配と人材を主軸とする経営資源の成長分野へのシフトの相互作用にこそ、成長戦略の要諦があるからである。その意味で、新政権は政労使の枠組みを復活させ、働く人々の声を吸い上げ、より直接的に政策立案に訴求できる状況を作ることが重要である。

国家債務の累増という負の側面は看過できないものの、経済成長を最優先した安倍政権の取り組みで、少なくともそれまでの縮小均衡経済に歯止めが掛かり、拡大均衡を目指す機運を作り出したことは正当に評価されるべきである。新政権の重要な課題は、この拡大均衡のムーブメントを定着させ、確実なものとしていくことである。幸先のよいスタートを切るには、アベノミクスに代わるトータルな経済政策パッケージを可及的速やかに提示し、持続可能な経済・財政に復帰する道筋を示すことが、まずもって新政権に課せられた課題といえよう。

・新政権の経済政策課題ーポスト・アベノミクスのトータル・パッケージ(PDF:732KB)
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