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【スマートインフラ】
社会システムでこそ生きるエナジーデータ

2020年09月08日 瀧口信一郎


 新型コロナウイルス感染症拡大で今年1月には想像しなかったオンラインでの働き方が浸透し、業務の多くがオンラインで可能と多くの人が実感した。そしてこの働き方は常態化しつつある。次はデータ活用の本格的なデジタル社会への移行が焦点となる。

 デジタル社会で最も将来性があるデータの1つが、人や企業がいつ、どれだけ電気や熱を使ったかというエナジーデータである。エナジーデータは、人や設備の活動をトレースし、その変動に着目することで社会価値を生み出すものである。エナジーデータが社会システムで有効な理由は4つある。1つ目は網羅性である。人や設備が動けばエネルギーが消費され、そこに必ずエナジーデータが発生する。2つ目はリアルタイム性である。金額など結果指標ではなく、現場の状況を表す一次データであり、連続かつ切れ目なく人や設備の動きを追える。3つ目は尺度の共通性である。工場、オフィス、家庭での異なる活動をエネルギーという1つの尺度で比較できる。4つ目は、既存データの存在と活用余地である。省エネで工場やオフィスには膨大な既存データの蓄積があり、それを社会システムに生かすことができる。

 日本総研はエナジーデータを用いて工場の収益力を向上させるソリューションを開発し、繊維やアルミなど素材加工の工場に導入した。工場で電力使用量や温度変化などのエナジーデータを観察していると、通常は安定しているがまれに変動が起きる。この変動のタイミングで生産に何らかの問題が生じていることが検知できるのである。そうであれば、エネルギーを安定化することが一挙に問題を解決させる、というのがこのソリューションのコンセプトである。エネルギー使用が安定すれば設備稼働が安定することを意味する。設備稼働が安定すれば、省エネを実現できるほか、人のミスが減る。また、目に見えないところで劣化していた品質を改善できる。設備稼働が安定することで、無駄になっていた材料のロスを減らすこともできる。このような改善の連鎖を実現することで収益性を向上することが実証できた。

 このエナジーデータを活用し社会価値を創出する活動を2つの方向で拡大したい。
 1つ目は、サステナブルな社会や企業活動を支えるファイナンスのデータ基盤である。この基盤ができれば、感染症の社会リスクや気候変動の自然リスクなどに対し、社会や企業の対応力を見極め、その向上にも役立てられる。エナジーデータは、省エネや再生可能エネルギーというエネルギーのグリーン化を評価できるのはもちろんのこと、突発事象に対応するオペレーションの柔軟性、強靭性などリスク対応力の評価にも活用できる。労働状況を把握し、適正な労働環境が確保されているかの評価にも貢献し得る。エナジーデータの活用で、企業が申告する年一回の集計されたデータをもとに評価する現状のサステナブルファイナンスのあり方は、常時モニタリングをもとに評価するものへと進化するであろう。この常時データを通じ、工場と本社、サプライチェーンの企業間、企業と金融機関の間に新たな関係性や価値が生み出されるはずである。

 2つ目は、サステナブルな都市インフラを支えるデータ基盤である。エナジーデータを活用し交通などの社会インフラと連携してエネルギーのグリーン化や災害時の地域自律運用を推進するのである。
住宅街などの地域エリアに太陽光発電を最大限導入しようとすると、昼間に発電し、夜に発電しない太陽光発電の特性が問題になる。すなわち、発電のエナジーデータ変動をどのように安定させるかが課題となる。この場合、電気を貯める蓄電池のコストが高いことを考えると、稼働の低い自家用車領域に踏み込み、電気自動車を蓄電池として利用する社会システムを構築することが有効な解決策となる。稼働状況を的確に捉えるエナジーデータの特性を生かし、電気自動車の走行・駐車の状況を把握し、太陽光発電からの電力供給と蓄電を安定させるのである。この仕組みができれば、災害時に地域で自律的にエネルギー供給する仕組みも可能となる。個人の電気自動車、自治体の災害対応や介護タクシーの電気自動車、カーシェアビジネス、駐車場ビジネス、マンションなどの不動産ビジネスなどが連携すれば、電気自動車利用の利便性向上といった住民への付加価値も生み出せる。

 上記の2つの活動を具体化するため、エネルギー、IT、金融、電機、交通、不動産といった企業が連携する事業化コンソーシアムの立ち上げを検討している。これらの企業の方々とともにエナジーデータを通じて社会に価値を生み出していきたい。ご賛同いただけると幸いである。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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