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官民連携による芝生化の推進 〜緑がもたらすソーシャル・イノベーション〜

2020年02月01日 東一洋


国際競技力と練習環境
 いくつかのスポーツ種目における国際競技力の向上を致命的に阻んでいる原因の一つとして、芝のグラウンドの少なさが挙げられている。
 ラグビーで、タックルを受けた選手が倒れながら出す「オフロードパス」からもそのことが分かる。3連続のオフロードパスから稲垣選手がトライに成功したラグビーW杯でのシーンは記憶に新しいが、あのように倒れ込みながらパスを出すには勇気がいる。こうした時、接地の衝撃に備えて体勢を整えることを優先し、パスの動作が遅れてしまう人がほとんどであろう。しかし、転んでも痛くない天然芝に幼少時から慣れた外国人選手は躊躇なく身を投げ出し、パスの動作に移ることができる。今回の3連続オフロードパスも、2本は外国人選手によるものであった。またサッカーでスライディングが苦手な日本人プレイヤーが多いのも、怪我をしやすい土のグラウンドで育ってきたことが深く関係すると考えられる。
 イングランドには、約20,000面の天然芝グラウンドがあるとされる。一方、2018年度において、わが国の天然芝・人工芝のグラウンドは約2500面(日本サッカー協会(JFA)調べ)と、わが国の三分の一程度の面積のイングランドのわずか4%程度でしかない。

芝生のもたらす多様な効果
 芝生による「クッション効果」によって思い切り体を動かす習慣が身に付くことの効用は、児童のうちから現れるという。校庭の芝生化が児童に与える影響についての調査では、芝生化で「児童のあそびの種類が多様化」「あそびに含まれる身体動作も活性化」しているとし、児童の身体能力や健康への効果を認められている(※)
 また、芝生は、地域コミュニティの空間を構成するものとしても、大きな役割を果たすと考えられるようになっている。国土交通省では、芝生地の持つ可能性と整備・管理のあり方を整理するため、「芝生懇談会」を開催している。懇談会では、「芝生・みどりの空間」の効果として、①多様な人を惹きつける、②地域コミュニティの核となる、③地域経済を活性化させる等と指摘している。
 私たちが芝生を活用するシーンとして最初に思い浮かべるのは公園であろう。しかし、実際には公園の芝生化率は10%強に過ぎない。また、国土交通省の公園利用者実態調査によると、公園の利用者は減少し続けている。人口減はもとより、公園に「危ない、うるさい、臭い(バーベキューなど)」とクレームが寄せられ、ボール遊びの禁止など、使い勝手が年々悪化していることが大きく影響している。

官民連携による芝生化の推進
 しかし、身近な公園が緑の芝生地となれば、よちよち歩きの子どもからジョギングを楽しむ大人や老人まで、再び多くの住民が集まる空間となる可能性がある。クレームは、自分はもう公園を使わないという心理的な背景から出されるものも多く、自らが公園の便益を享受、つまり公園に来るようになれば、状況は大きく変わるはずである。
 ただし、芝生地の整備と維持管理にはコストが伴う。自治体の財政が厳しさを増すなかでは、維持管理に住民も参加する管理運営方法を構築することが必要となる。例えば、豊島区の南池袋公園は、「南池袋公園をよくする会」という地元町会、商店会、学識、区、公園管理会社からなる運営組織が公園経営を行う。青々と広がる芝生広場と区が誘致したカフェレストランには子連れの家族をはじめ多くの人々が集まり、繁華街の中にあって明るい憩いの場となっている。
 芝生地の充実を図ろうとする、民間からの動きもある。例えば、日本サッカー協会では、大型スタジアムから、地域のサッカー場、園庭や校庭など、用途や使用者に応じた芝生の環境を広げることを目的としたJFAグリーンプロジェクトを展開している。ここではサッカーグラウンドだけではなく、地域コミュニティの場として整備することが目的とされる。地域コミュニティの場として機能させるために、サッカー協会(加盟クラブ)、行政、そして地域住民の共創構造を構築するため、日本総研も官民連携のノウハウを提供している。
 社会課題解決(ソーシャル・イノベーション)ではICT利活用に脚光が当たるが、現代においてもアナログな手法の重要性が変わるわけではなく、特に芝生環境整備はまだ新しい課題である。
次のW杯では、日本人選手によるオフロードパスの連続で、勝利につながるトライを成功させて欲しいと願う。

(※)校庭の芝生化が児童の遊びの種類や身体動作に与える影響に関する研究(上澤美鈴、加我宏之、下村泰彦、増田昇,2009)

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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