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日本総研ニュースレター 2020年5月号

新型コロナウイルスに立ち向かう日本の農林水産業

2020年05月01日 三輪泰史


広がる草の根運動的な支援
 新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、各地で多くの貴重な命が失われてしまっている。お亡くなりになられた方のご冥福をお祈り申し上げるとともに、一刻も早い収束を心から願っている。
 5月上旬現在、新規感染者数の増加は鈍化傾向に転じてきたものの、社会・経済への影響はいっそう深刻になってきている。そのような中、筆者が専門とする農林水産業にも、多大な影響が生じている。
 まず、休校で使われなくなった給食用食材や、外国人観光客向けの高級食材が行き場を失い、農業者等の収入減のほか、多くのフードロスの発生が危惧されるようになった。このような緊急事態に対して、農林水産省は会見やホームページを通して、国産農産物の積極的な消費への協力を呼び掛けている。加えて、農林水産省職員によるYouTubeチャンネルである“BUZZMAFF”等のSNSでも情報発信している。筆者も農林水産省の食料・農業・農村政策審議会畜産部会長として、牛乳の家庭での消費をお願いするコメントを出した。これらのメッセージは、マスコミで広く取り上げられ、消費者の協力を得られるようになっている。
 それでも農産物の需給のアンバランスは長期化しているが、国内の農林水産業を支えたい消費者がより協力しやすいように、農林水産省のホームページには余剰食材を特集するページが設けられ、ふるさと納税でも余剰食材を勧める特設ページが立ち上がっている。新型コロナウイルスの影響は非常に大きく、簡単に「原状回復」とまではいかないが、国民の草の根運動的な支援が多くの農林水産事業者、食品事業者の支えになっていることは間違いない。

入国制限が「スマート農業」普及を後押し
 次に問題となっているのが、労働力不足の問題である。農業者の高齢化が進み、農業就業人口の減少が続くわが国では、労働力を補うためにおよそ3万1千人の外国人労働者が農業分野に従事している(2018年10月末時点)。そのうち、およそ2万8千人が外国人技能実習生で、その多くが東南アジア、東アジア等からの人材である。さらに2019年4月1日からは新制度の下で特定技能外国人の受け入れも始まった。特に人手がかかる作物の産地では、外国人材抜きでは供給体制が維持できない地域が少なくない。
 しかし、海外からの入国制限(2020年4月下旬時点で87カ国・地域。東アジア・東南アジアでは、インドネシア、韓国全土、シンガポール、タイ、台湾、中国全土香港およびマカオを含む、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシアが対象)により、多くの外国人材が来日できなくなり、現場の人材不足が顕在化しつつある。近年、農林水産省では長期的な労働力不足に備え、AIIoTロボティクス等の先進技術を駆使したスマート農業の普及を進めているが、今回の外国人材不足を受け、導入をさらに加速化する方針を示している。スマート農業は今まさに急速に技術革新が進んでいる分野であり、まだすべての農作物・作業に適用できる「万能選手」ではないが、一部の製品・システムは既に十分な技術水準に達し、農業者の役に立ち始めている。まずはできるところから先行的に普及を加速させる狙いである。

「有事」に備えた生産拡大と消費者への価値訴求を
 長期的には、食料自給力(ある国の農林水産業が有する食料の潜在生産能力を表す指標。食料自給率と異なり、農地・農業用水等の農業資源、農業技術、農業就業者等の要素を含む)を高める取り組みが必須である。今回の新型コロナウイルスによる混乱だけでなく、東日本大震災等の地震災害、頻発する台風・洪水等の異常気象、国際紛争など、
近年かなりの頻度で食料供給に悪影響を与える「有事」が発生している。新たな食料・農業・農村基本計画が、先日の閣議決定を踏まえて実行に移されるが、これまで以上に食料の安定供給に対する危機感を認識する必要がある。
 今回は一部を除いて食料の買い占め騒動は発生しなかったが、トイレットペーパー等の騒動を鑑みると、何かの拍子に食料供給が不安定化してしまう危険性が充分あったと言える。需要家のニーズの高い品目・品種の生産拡大をはじめとする生産者側の取り組みに加え、消費者に対して国産農産物の価値を訴求し、積極的に購買してもらうようなムーブメントの創出が重要である。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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