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アジア・マンスリー 2020年9月号

新型コロナの感染拡大が止まらないインド

2020年08月27日 熊谷章太郎


ロックダウン(都市封鎖)の緩和によりインド経済は最悪期を脱した模様である。しかし、経済・社会は当面不安定化しやすい状況が続くと見込まれる。

ロックダウンの緩和により景気は持ち直し
2020年3月下旬、新型コロナが各国に広がるなか、インドは諸外国と比べても厳格なロックダウンに踏み切った。しかし、経済活動の停止に伴い失業者が急増すると、日々の生活に困窮する人々の栄養状態の悪化や自殺の増加といった社会問題が深刻化した。そのため、4月中旬以降、政府はロックダウンを段階的に緩和する方向へ政策を転換した。

しかしながら、州をまたぐヒトの移動の再開により、新型コロナの感染拡大ペースは加速し、累計感染者数は8月上旬に200万人を超えた。人口対比でみた累計感染者・死亡者は主要な感染拡大国の中では低いものの、人口の多さを背景に、米国、ブラジルに次ぐ世界3番目の累計感染者数を抱える国となっている。

一方、景気については、ロックダウンの緩和に伴い、最悪期を脱しつつある。速報性の高いPMI(購買担当者指数)は4月をボトムに改善傾向をたどっており(右中図)、4~5月に20%を上回っていた失業率も足元では一桁台に低下している。
ただし、新型コロナの感染拡大に歯止めが掛かからない状況下、「封じ込めゾーン(Containment Zone)」を中心に一定の規制が残存していることもあり、景気の回復ペースは緩慢なものにとどまっている。位置情報から人の移動状況を数値化したGoogle社のモビリティレポートによれば、娯楽・商業施設を中心に人出は依然として前年を大きく下回っており、州政府独自のロックダウンなどが強化されるなか7月入り後の人出は再び後退している。

当面の経済・社会の不安定化リスク
景気は最悪期を脱したものの、以下のリスクが残存する状況下、当面は経済・社会が不安定しやすい状況が続くと見ておくべきである。

まず、懸念されるのが医療体制のひっ迫リスクである。インドは人口当たりの病床数や医師数などが国際的にみて最低の水準にあり、医療がひっ迫するリスクが常に存在している(右下図)。医療体制がぜい弱な地域を中心に感染者への適切な治療が困難になる場合、重症化率・死亡率が高まり、いわゆる「医療崩壊」が起こる可能性がある。一方、医療崩壊の回避を優先してロックダウンを再び厳格化する場合は、景気悪化に伴う失業問題が再燃する。そのため、政府は医療崩壊の回避と経済活動の立て直しの両立に向けて、難しいかじ取りを迫られている。

また、かねてからの金融システムの不安定化リスクも続いている。これまでの景気悪化や個人・企業向けに打ち出された債務の返済猶予措置などを背景に、金融機関の経営悪化は避けられない。インド準備銀行は、7月に公表した金融安定報告書で、商業銀行の不良債権比率が 2021 年にかけて上昇し、自己資本不足に陥る銀行が出てくるとの見通しを示している(右上図)。また、ノンバンクにおいては、金融機関からの借入や社債・CPによる資金調達が負債の5割弱を占めていることを踏まえると、その資金調達環境も厳しさを増すことになる。その結果、資金調達に窮する金融機関が経営難に陥り、信用不安が広がる懸念があり、経済成長が金融面から制約されかねない。

さらに、財政悪化リスクもある。景気悪化に伴う大幅な税収減少を主因に、2020年度(2020 年4月~21 年3月)の一般政府の財政赤字は対名目GDP比で 10%を超え、債務残高も同80%を上回ると見込まれる(右下図)。新型コロナの感染拡大に伴う医療費の増加や、金融システムの安定化に向けた国営銀行への大規模な公的資本注入などの必要が生じる事態となれば、財政状況のさらなる悪化は避けられないだろう。

それ以外にも山積みするリスク
こうした状況下、インド準備銀行は財政政策の負担軽減と金融安定に向けて、長期資金供給オペを含む非伝統的な金融政策を拡大させていくと予想される。さらに、状況がより深刻化すれば、一部のエコノミストから提唱されている、国債の直接引き受けといった通常は禁じ手とされる手法に踏み込む可能性もある。ただし、こうした財政ファイナンス政策に踏み込めば、財政規律の欠如が大幅なルピー安を招き、インフレが高進してしまうリスクが高まる。その場合、景気低迷下にも関わらず金融引き締めを余儀なくされ、かえって経済に高い負荷がかかることになる。

この他、蝗害(バッタの大量発生)による農業生産の悪化や、国境問題をきっかけとした中国との経済関係悪化による中間財調達の不安定化などのリスクも抱えている。このような状況を踏まえると、インド経済がこのまま力強い持ち直しに向かう展開は期待薄と判断される。
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