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リサーチ・フォーカス No.2020-019

出生数急減の背景と今後の少子化対策-現物給付重視の少子化対策の限界と若い世代の生活支援

2020年08月19日 藤波匠


2020年6月に厚生労働省が発表した人口動態統計によれば、2019年の出生数(日本人のみ)は、前年比5万3千人減の86万5千人(▲5.8%)と、減少幅が一段と拡大した。そこで、出生数急減の背景と2020年以降の出生数の見通し、およびわが国少子化対策の課題などについて考察した。

2019年に出生数が急減した主因は、1.36となった合計特殊出生率の急落である。女性の人口や年齢構成は、構造的に出生数の下押し要因となっており、今後もこの出生率が継続すると、出生数は2030年に77万人となる。逆に、合計特殊出生率を2025年に1.44、2030年に1.49と段階的に引き上げていくことができれば、出生数は当面2019年実績を維持することが可能で、この水準の回復が目標となろう。

政府は、2015年に策定した「少子化社会対策大綱」をはじめ、様々な政策の柱として少子化対策、子育て支援政策を打ち出してきた。また、家族向け社会支出の拡充にも積極的に取り組み、2014年からの3年間で2.5兆円増額(+40%)されている。しかし、合計特殊出生率は、2015年をピークに低下傾向にあり、政府が実現を目指していた2025年までの希望出生率1.8達成は困難な状況にある。

2015年以降、少子化対策・子育て支援策として、主に都市部を中心に保育所の受け入れ枠を急拡大させてきたが、出生率の低下傾向に歯止めがかからない現状を踏まえれば、少子化対策の量と質に関し、改善の余地が大きいと考えるべきであろう。

量的視点では、わが国の家族向けおよび労働関係の社会支出額は、対GDP比で1.88%に過ぎず(2017年実績)、子育て支援政策の先進事例とされるドイツやフランスの3.82%、5.55%(両者とも2015年実績)に及ばない。両社会支出額をフランスと同水準まで拡充するとした場合、追加的に年間20兆円が必要となる。

質的視点では、近年増加傾向にあるわが国の家族向け社会支出の伸びの中心は現物給付、とりわけ「就学前教育・保育」であり、現金給付額は微減傾向にある。この背景には、国際的な動向とともに、子育て支援、少子化対策として、現物給付の方が好ましいという社会的な合意があった。OECDが就学前教育の重要性を指摘した影響も大きい。わが国の場合、現物給付を増やす流れの中で、保育所の受け入れ枠の拡大が図られている。

しかし、これから子どもを産む若い世代にとっての最大の懸念は、現在、および将来の経済環境への不安である。団塊ジュニア以降の世代は、それ以前の世代に比べて明らかに所得水準が低下している。各種アンケート調査で、子どもを作らない理由として、経済的要因を挙げる若い世代が多いことはよく知られた事実である。

若い世代が、自らの将来の所得などに対して悲観的な見通しを持ち、それが低出生率の一因となっている。若い世代における所得環境の悪化が深刻なわが国においては、現物給付を重視した少子化対策・子育て支援策が奏功することは期待しえない。

現金給付による再分配を通じて若い世代の経済環境を改善する視点も必要であり、現物給付拡充一辺倒の政策を見直すことが求められる。現金給付には、政府が期待する子育て支援につながるかどうかは不確かな面はあるものの、少なくとも彼らの生活をサポートする国の姿勢を明確に示すメッセージとなる。

若い世代が経済的な不安を感じることなく子育てができる環境を作るため、現金給付の望ましい水準や給付の手法などを再検討し、現物・現金給付のバランスのとれた社会保障を構築することが必要といえよう。

・出生数急減の背景と今後の少子化対策-現物給付重視の少子化対策の限界と若い世代の生活支援(PDF:878KB)
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