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ウィズコロナ時代のあるべき職場環境管理

2020年08月17日 下野雄介


1.はじめに
 改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が5月25日に解除され、経済活動の麻痺は解消されたかに見られた。しかし都市圏を中心に再び感染者が増加し、企業では都市間の出張による移動を制限する動きが出始めている。完全な終息には1年とも、2年でも早い方とも言われるが、いずれにしても昨今の動勢によりウィズコロナ時代の ニューノーマルへの適合は必要不可欠であることを強く認識させることとなった。
 ニューノーマルとは従来と異なる経済状態に移行するという意味であるが、コロナ下での企業のニューノーマルとは、「非対面・オンライン」でのコミュニケーション、いわゆるテレワーク・リモートワークへの移行を指す(※1)
 全国の企業におけるテレワーク導入率は2020年4月時点で少なくとも34.6%以上に上ると考えられる(※2)。都内企業だけに絞れば半数を超え、62.7%にもなる(※3)。2018年時点の全国におけるテレワーク導入率が19.1%であったことを考えれば、急速な普及を見せていると言えるであろう(※4)。ただし、急ごしらえのため、整備課題を抱えたままのケースは少なくない。前述した内閣府の調査によれば、ユーザーサイドの問題意識は、①テレワーク下での業務効率化(とりわけペーパーレスの推進)、②職場環境への不満・不安の2点に収斂する(※2)。テレワーク下での業務効率化については顕在的な問題であり、放置した場合のインパクトや業務効率化を行った場合の効果も見えやすく、比較的全社ベースですぐに取り組まれる傾向があろう。一方、職場環境については、変化が漸進的であり表面化まで相当な時間を要する上、その変化は各職場でのみ観察することができるという特性がある。そのため、全社として問題に対処するというよりは、個々の職場の管理職が工夫しながら対処しているのが現状といえる。
 筆者は、テレワーク環境下における良好な職場環境構築は、従来型管理の延長では対応できないと考えている。そこで本稿では、「テレワーク移行による職場環境への影響とあるべき管理方法」について考察する。

2.テレワークによる職場環境への影響
 そもそも職場環境とは何か。職場環境は労働安全衛生の観点から定義されており、①オフィス環境や作業環境、②人間関係、③業務量・業務内容、④自己裁量権の4つに大別される(※5)。これらの要素を管理することが、職場環境管理の要点となる。なお、労働安全衛生上の職場環境と言うと、快適な職場環境の整備であったりストレスチェックの義務化であったりと義務的に捉えられることも少なくないが、良好な職場環境と業績・生産性は相互に作用し高め合えるものである(※6)。近年、「健康管理を経営的視点から考え戦略的に実践する」健康経営に注目が集まっているが、そういった経営環境の変化からも、職場環境の改善は持続的経営にとって非常に重要な課題と捉えるべきである(※7)
 さて、コロナ以前における職場環境管理はどのようになされていたのか。一言でいえば前述した職場環境要素の②~④に対して、「場の空気を読み対応する」ということに尽きるであろう。日次・週次レベルで、総合的に部下を観察しての違和感をきっかけに、事を荒立てないよう雑談やいわゆる飲みニケーションで情報収集・確証を得て、適切な対策を取るということである。総合的な観察には、残業時間や目標達成状況など定量的に把握できることだけではなく、顔色や表情、対話における反応、職場内での振る舞いなど定性的な情報も重要である。
 また、管理者が指示や指導するにあたって、オフィス環境は重要な舞台装置である。机の位置や大きさ、区画などの管理者特有の作業環境によって管理者の権威が可視化され、管理者による統制を発揮しやすいのである。テレワークにおいて「定性情報」「オフィス環境」が失われているのは周知であり、職場環境管理における「きっかけ収集」「指示・指導」に関して、機能不全に陥りやすい状況と言える。
 もちろん組織風土や職務内容によっては、影響を受けづらい企業も存在する。典型的なケースとしては、成果主義や個人尊重の組織風土を持つ職場が挙げられる。成果責任を果たしさえすれば業務の量・質を自身でコントロールでき、また自由が得られるという魅力に惹かれた人が集まって形成されている組織では、職場内での相互の人間関係もドライな傾向がある。こういった職場おいては上述した職場環境における問題は起こりづらいと思われる。一方で業務が定型的であり職務主義的管理をしている職場は、影響を受けやすいものと推察される。テレワーク環境下では、定型的であるほど業務処理上のコンタクトを取る必要がなくなるうえ、従来昼食や休憩や雑談で築いてきた人間関係も維持できなくなるためである。また、職務主義的な職場では定量での成果を規定しづらいため、部下の達成感は主として上司や周りからの評価や承認が主となりがちであるが、テレワーク環境下ではコミュニケーション手段が従来の対面型からメール等に置き換わることで、達成感を感じづらい状況になっているはずである。



3.テレワーク時代の職場環境管理とは
 では、テレワーク環境下で「影響を受けやすい」職場の環境管理はいかにするべきか。端的に言えば、「攻めと守りを両立すること」が必要である。
 「守り」、つまり職場環境における適時適切なリスク対応に向けては、定型的業務のQCD(Q:”Quality” (品質)、C:“Cost” (費用)、D:“Delivery” (納期))を可視化し管理することが必要である。定型的業務であったとしても、その業務目的や求められる品質レベル、処理時間や納期について明確に設定されてこなかった職場は少なくないと思われる。コロナ以前は、定性情報に基づきフォロー・業務配分・承認という対応をする方が効率的なケースが多かったためである。しかしながら今、定性情報が得難い以上、意思決定に必要な情報は可視化する他ない。昨今、様々な業務管理ツールがある。グループウェアのスケジューラーやタスク管理ツールなどは多くの企業がすでに導入しているものと思われる。これを利用し、部下に業務計画を作らせ、業務内容や成果物について品質・時間・スピードをレビューするとともに、問題がある場合はしっかり話し合い、対応するという管理サイクルを愚直に回すことがまずもって必要である。
 とはいえ、こうした管理の可視化・厳格化のみでは良好な職場環境は得難いであろう。そのため「攻め」の要素として、コロナによる環境変化をチャンスと捉えた前向きな活動が必要になる。具体的には活発な小集団活動を通じた部門変革に取り組むべきであると筆者は考える。小集団活動はQCサークルとも呼ばれ、ボトムアップ型で改善活動を行うための仕組みである。管理者は部門ビジョンの設定と取り組みテーマ設定を行った上でチームアップし、遂行に当たってはチームに権限責任を委任しつつ、チームの自主性を損なわない範囲で管理する(なお、管理者と部下によるチームの間の役割分担は様々なケースがあり本稿の役割分担が必ずしも最適解ではない点には留意したい)。小集団活動の活性化は部門の生産性向上という成果のみならず、「失われた職場内のコミュニケーションの活性化」「自己裁量権の幅を拡張すること、組織貢献が可視化されることによるモチベーションの向上」「管理者たる能力の発揮による実質的な管理者権威の復活」という3点から、成員が前向きに、元気に仕事に取り組む職場への変革が期待できるのである。

4.終わりに
 本稿では、テレワーク下での職場環境管理方法の在り方について論じた。見方を変えれば、これまで足踏みしがちであった生産性向上や働き方改革に取り組みやすくなった、と解釈することもできる。部門の変革にはチェンジマネジメントに沿った取り組みが有用であるが、チェンジマネジメントの第一歩であり非常に難しいポイントである「部門における危機感の醸成」が、今の環境下では理解され易くなっているためである(※8)。良好な職場環境と生産性の向上を両立できる機会であると考えれば、今こそ前向きに職場環境改善に取り組めるのではないか。
以 上


参考文献
(※1) 厚生労働省(2020)「「新しい生活様式」の実践例
(※2) 内閣府(2020)「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査
(※3) 東京都(2020)「テレワーク導入率緊急調査
(※4) 総務省(2019)「令和元年版情報通信白書
(※5) 厚生労働省(2020)「労働条件・職場環境に関するルール
(※6) Sauter,S.L., Lim,S.Y., Murphy,L.R., Organizational Health: A New Paradigm for Occupational Stress Research at NIOSH, 産業精神保健, 4(4), p.248-254,(1996)
(※7) 経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課(2016)「企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~
(※8) J.P.コッター(2002)『企業変革力』

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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