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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.20,No.78

コロナ収束後の中国経済のV字回復は可能かー「9 割消費」が新常態に

2020年08月18日 三浦有史


中国は新型コロナウイルスの新規感染者がゼロとなる地域が着実に増えていること、また、人口比でみた新規感染者数が決して多くないことから、今のところ感染拡大防止策がかなりの成果を上げているといえよう。中国は、①個人と地域のリスクをネットワーク上で管理する情報管理体制、②自治体の相互監視機能を活用した「封閉式管理」、③新規感染者が少数でも大規模な隔離やロックダウンに踏み切る大胆な感染拡大防止策によって、移動規制の緩和と「第2波」の抑止を両立させる出口戦略を採っている。

企業の稼働率がコロナ前の水準に戻ったことを受け、中国では楽観論が台頭し、国際通貨基金(IMF)の予測を上回る成長を遂げるという見方が出始めている。もっとも、供給サイドの経済指標をみると、企業業績の回復ペースは緩やかであり、IMFの見通しを上回る成長が可能とする見方には無理があるといえる。

需要サイドの指標からは、投資が回復しており、年後半の回復を支えるエンジンになると見込まれる。一方、個人消費と輸出はいずれも景気回復の足かせになると見込まれる。消費支出が可処分所得を上回る減少をみせたように、家計は雇用・所得環境が好転する見通しを持ちにくく、貯蓄志向を高めている。輸出も先進国と新興国の景気後退を受け、回復が期待出来る状況にはない。

百度(Baidu)の移動規模指数によると、移動と消費はコロナ前の9割水準、つまり「9割消費」が新常態になりつつあるといえる。消費は感染が収束局面に入ったからといって増えるわけではなく、個人が感染のリスクをどのように評価するかという心理状況によって左右される。

オックスフォード大学の厳格度指数をみると、中国は依然として緊急事態宣言下のわが国より厳しい規制を敷いており、家計の貯蓄志向が低下するとは考えにくい。中国では感染収束を受け家計がここぞと消費を増やす「報復性消費」に対する期待が高まっているが、その効果は期待されるほど大きくない。

中央政府は地方政府に5G基地局などの新型インフラの建設を促す「新基建」という投資拡大の「免罪符」を与えた。しかし、地方政府は新型インフラ投資ではなく伝統的なインフラ投資によって景気回復を試みるとみられる。全人代で大型の景気刺激策が打ち出されなかったからといって、過剰生産能力、投資効率低下、高レバレッジなどの問題が悪化しないと考えるのは早計である。

地方政府の野放図な投資拡大によって中国の投資効率はアジア諸国のなかで最低水準に落ちる可能性がある。中国経済を巡る喫緊の問題は、2020年中にV字回復を遂げることが出来るか否かではなく、投資効率を一段と下げる投資主導の回復を回避出来るか否かである。
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