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JRIレビュー Vol.6,No.90

子どもの視点から見たICT活用型デマンド交通(公開日2020年8月)

2021年05月28日 泰平苑子


わが国では少子高齢化が進み、利用者や運転手の減少など、公共交通の維持が難しい地域が増えている。国は持続可能な地域の旅客運送サービスの提供を目指し、交通事業者の運用改善や支援強化、法改正を進めている。地域の旅客運送サービスの1形態であるデマンド交通に高度なICTを活用するなど、自治体や交通事業者の運行負担を軽減し、移動者目線によるサービス改善が期待されている。国の調査結果を見ると、子育て世帯の私事の移動目的に「送迎」が多くを占める。送迎手段として徒歩・自転車・自動車の選択意向が高く、公共交通の利用は限定的であることから、子どもの送迎を含む子どもの移動には、公共交通では充足が難しい、何らかの移動課題やニーズがあると考えられる。

当社主催の「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」におけるICT活用型デマンド交通の実証から、免許返納などの移動課題を抱える高齢者だけでなく、子育て世帯や子どもが新たな利用者層として浮かび上がった。実証での子育て世帯と子どもの利用傾向を見ると、他年代と比べて会員登録後の利用意向が高く、リピート利用や複数人での利用も多い。また、地域特性を踏まえた曜日や時間帯の偏りも見られた。国の調査結果と実証結果から、柔軟性の高い運行形態が設計可能なICT活用型デマンド交通は、子育て世帯や子どもの移動課題の解決への一助となるサービスの提供が可能であると期待できる。

では、子育て世帯や子どもの移動課題やニーズにもとづくと、どのようなICT活用型デマンド交通が望ましいか。彼らが地域内の旅客運送サービスに求めているのは、五つのユースケース(1.妊婦の移動、2.乳幼児を抱えた移動、3.ベビーカーでの移動、4.子ども連れの移動、5.子どもだけの移動)に整理できる。これを踏まえると、まず、子どもの視点に立脚した運行形態が求められる。さらに、ICTを活用して、デマンド機能・乗合機能・配車機能などサービス設計を工夫することも必要である。

持続可能な地域形成には、地域に転入する若い世代や将来のまちづくりを担う子ども達の参加が重要である。子育て世帯や子どもに優しい公共交通は、高齢者にも利便性が高く、彼らの買い物や食事など外出意欲の向上も期待され、地域回遊性の向上や地域経済の活性化につながる。そして、子どもの視点から見たICT活用型デマンド交通の導入は、今後の地域のまちづくりの重要な要素となる。これからは地域が自らデザインする地域交通として、移動ニーズにきめ細かく対応できるメニューの充実が期待される。持続可能な運送サービスに関する検討は、公共交通事業者に限らず、地域の一員として多くの住民が参加することが望ましく、彼らの声が運行やサービスの改善を促進させる。
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