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HRテクノロジーを活用したコロナ時代の人材育成のあり方

2020年07月28日 宮下太陽


1.はじめに
 緊急事態宣言後も、わが国の感染者数は都市圏を中心に増加傾向にあり、第二波の到来に向けて予断を許さない状況である。個々人の認識としても、今般のコロナ禍については、長期的な影響があり、経済への影響の深刻に捉えていることが指摘されている(※1)
 コロナ禍において従来の日常生活からの転換を余儀なくされ、大きな社会変化が起こりつつある中、「Build Back Better」というキーワードのもと、様々な分野でこれまでよりも、よりよい形を模索する動きが続いている。働き方をめぐっては、コロナ禍収束後もテレワークを行いたいという回答が6割に達しており(※2)、また、企業の側でもオフィスを縮小や分散するなどの動きが相次いでいる(※3)
 人が集まって仕事をするというこれまでの当たり前が再考を迫られる中、本稿では人材育成に焦点を当て、ウィズコロナ時代におけるよりよい人材育成のあり方について考察する。

2.これまでの人材育成とコロナ禍での課題
 従来の企業の人材育成は、仕事の中で学んでいくOJT(On The Job Training)と仕事を離れて知識やスキルの習得を図るOFF-JT(Off The Job Training)に分けられ、OFF-JTは階層別研修と選抜型研修に区分される。
 企業の人事部がまず今回のコロナ禍において頭を悩ませたのが、OFF-JTの階層別研修の入り口にあたる新入社員の集合研修であろう。入社式の実施さえ危ぶまれる中で、新入社員を一カ所に集めて2カ月程度集中的に集合研修を実施するという従来のパターンは通用しなくなり、ウェブベースでの研修受講に切り替えたり、課題図書を送付してレポートの提出を求めたりなど各社様々な工夫で乗り切られたのではないか。
 そして今まさに頭を悩ませているのが、配属後のOJTであろう。テレワークが浸透する中で、通常の業務はむしろ生産性が高くなったという企業もあると思われるが、こと人材育成については、これまでのように横について仕事を一緒に行いながら、その人の理解度や到達度を見て適切なアドバイスを行うということができないため、十分なフォローが難しくなっているという声をよく聞く。OJTで手取り足取り教えていくことができない分、テレワークにより通勤時間が短縮されたり、顧客往訪等の移動時間が削減されたりしたことで生まれた隙間時間を有効に活用することが解決の糸口となるであろう。
 またこれらの点については、中長期的には新入社員に限った話ではなく、既存の社員も含めた企業の人材育成全般に関わる問題であり、ウィズコロナ時代における、よりよいOJT、OFF-JTの再設計が求められているといえる。

3.HRテクノロジーを活用したこれからの人材育成
 前述した課題を踏まえ、HRテクノロジーを活用したこれからの人材育成を展望すると、まず必要となるのが人材育成におけるオンライン領域の拡大である。
 これまでオンラインでの人材育成、つまりeラーニングというと、定型的な外部コンテンツの利用か、内部であれば会社のコンプライアンスといったある程度定型的な情報伝達に限られていた側面がある。今後は、テレワークの状況において横で仕事を教えるということが難しい中で、これまでOJT領域として考えられていた具体的な仕事の中身についても、オンラインでのOFF-JTを活用した人材育成を実施していくことが求められてくるであろう。
 本稿ではその際に有効なHRテクノロジーであるマイクロ・ラーニングと学習管理システム(LMS:Learning Management System)を取り上げたい。マイクロ・ラーニングについてはOJT領域の補完、LMSについてはオンライン領域拡大時における進捗管理・効果検証という役割が期待できる。



 まず、マイクロ・ラーニングとは一般に1回5分ほどの短い学習量を、モバイル機器などを使って手軽に学習する方法のことであり、BtoCの領域においては英語学習を代表例にかなり一般化してきている。一方企業における活用領域については、これまでコンプライアンスなどの定型的な知識習得に偏っていた。しかし今後は、テレワークの浸透とともに、隙間時間が増える中で、その会社ならではの営業業務や経理業務等についても、マイクロ・ラーニングを活用し、最初のつまずきを乗り越えたり、効率を高めたりするちょっとしたティップスをまとめるような形でコンテンツを広げていくなど、テレワークにより生まれた隙間時間を有効活用する形で、従来OJTで行っていた人材育成の一部を補完する動きが広まっていくのではないか。
 次に必要なことは、人材育成状況の見える化である。従来人材育成の状況把握は現場の上長に任せているのが普通であったが、テレワークが一般化する中、そもそも部下の仕事状況が見えにくくなっており、従来の人事評価自体が難しいという問題が指摘されている状況において、人材育成の状況把握についても現場の上長だけに任せるのではなく、本人自身と会社の双方が確認できるようにしていく必要がある。この時有効なのが学習管理システムである。学習管理システムとは一般に学習教材の配信、学習者の受講状況、成績などを管理する統合型プラットフォームであり、日本でもCornerstoneやCloud Campus、CAREERSHIPなど様々な製品が市場に投入されている。その世界市場は2027年までに現在の108億ドルから375億ドルに拡大すると予測されており、日本においては2020年から2027年の間に17.3%の成長が見込まれている(※4)
 学習管理システムを活用することで、テレワークが常態化した状況においても、各人の人材レベルを現場任せにすることなく会社として担保できる基盤は整うが、この時留意すべき論点は、人材育成の目標と基準をどのように設定するのかである。上司が見ているときは、上司の目から見て期待を超えるようになったか否かが閾値であった。これまで上司が行っていたことを、システムを活用して補完していくためには、人材育成の目標と達成基準を誰が見ても判断できるようにこれまでよりも明確にする必要があり、そのためには標準化が必要となる。標準化のポイントは、期待された仕事をする上で必要な力(知識・技能・コンピテンシー・経験等)が身についているかどうかを明らかにすることにある。その際、通常日本においては仕事に必要な力が暗黙知化していることが多いことから、まず仕事そのもの(ジョブ)と仕事を遂行するために必要な基本条件の再定義が必要となるケースが多い。この点は昨今日本においても導入が加速しているジョブ型雇用の議論に関係してくるのであるが、それはまた別の機会に論じたい。
 HRテクノロジーに限った話ではないが、システムは導入すれば終わりではなく、運用にこそ付加価値の源泉があり、適切に運用できなければただの箱になってしまう点には留意が必要である。

4.おわりに
 本稿ではコロナ時代の人材育成のあり方についてHRテクノロジー活用の可能性を論じ、マイクロ・ラーニングと学習管理システム(LMS)を取り上げた。
 現在、わが国の企業の人材育成投資について、OFF-JTに費用を支出している企業における労働者一人当たりの平均額は1.9万円と前年(1.4万円)よりも増加しており、3年移動平均を見ると近年は同程度の水準で推移していることがうかがえる(※5)。一方、国際比較という観点では、GDPに占める企業の能力開発費の割合は、米国、フランス、ドイツなどと比べて日本は突出して低い状況にあり、長期的にみて労働生産性の向上性を阻害する要因となることが懸念されている(※6)
 また、政府が成長戦略実現のための司令塔として設置している日本経済再生本部が開催している未来投資会議において、新しい働き方や労働市場のあり方についての議論が行われており、その中で、政府としてリカレント教育やHRテクノロジーの導入を推進していく方針を明確に打ち出している(※7)。
 企業においても、労働市場の変化や国の方針について適切に把握した上で、コロナ時代の人材育成施策の立案と、それを実現するための人材育成投資が求められているのではないか。
以 上


【参考文献】

(※1)サトウタツヤ他(2020)「新型コロナウイルスの拡散とそれに関するリスク:オンライン調査の結果」、対人援助学マガジン、41、93-104.
(※2)公益財団法人日本生産性本部 (2020) 「新型コロナウイルスの感染拡大が働く人の意識に及ぼす調査
(※3)富士通株式会社(2020)「ニューノーマルにおける新たな働き方「Work Life Shift」を推進
(※4)Global Industry Analysts、 Inc. (2020) 「学習管理システムの世界市場」
(※5)厚生労働省(2020)「能力開発基本調査
(※6)厚生労働省(2018)「労働経済の分析―働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について―
(※7)日本経済再生本部(2020)「未来投資会議第40回:令和2年度革新的事業活動に関する実行計画案

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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