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日本総研ニュースレター 2020年3月号

地域づくり、まずは「女性目線」から
~男性優位の地方創生は機能不全~

2020年03月01日 井上岳一


東京圏一極集中の「主役」は女性
 今年1月末、総務省は2019年の住民基本台帳人口移動報告を公表した。以下は要点だが、「地方創生」の掛け声も空しく、相変わらず東京圏一極集中が続いている。

●転入超過の都道府県は、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、福岡、滋賀および沖縄の8つ
●東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)の転入超過は14万8783人(前年比8915人増)で24年連続。一方、名古屋圏(愛知、岐阜、三重)および大阪圏(大阪、兵庫、京都、奈良)は、共に7年連続の転出超過
●東京圏の転入超過数は、男性6万6014人、女性8万2769人(男性44%:女性56%)
●東京圏の転入超過数の89%は15~29歳


 転入超過の9割を15〜29歳の若者が占めることから、大学進学と新卒就職が東京圏一極集中の主因と推察される。興味深いのは、転入超過の過半数が女性で、かつ、その大半が東京圏を目指していることだ。2019年に転入超過となった女性の総数は91,759人。このうち52%が東京への転入者だ。神奈川、埼玉、千葉も合わせると82%にも上る。
 子どもを産む可能性のある若い女性が多く出て行ってしまえば、地方は少子化と人口減少に拍車がかかるばかりだ。女性の出生率が低い東京に女性が集まれば集まるほど、この国の少子化は進む。子を産むばかりが女性の役割ではなく、産む産まないも、どこに住むかも個人の選択に委ねられるべき問題だが、今のまま東京に女性が集まり続ければ、この国のマクロ経済にとっては、望ましくない結果となる。

女性達が突きつけるNOに地方はどう対処すべきか
 以上を踏まえると、地方創生が目指すべきは、何をおいても女性が住みたくなる地域になることだ。単に定住人口を増やすというのではなく、女性に的を絞り、女性に選ばれる地域になるための施策を集中的に実施する必要がある。
 具体的な方向性は二つだ。第一に、若い女性が住み続けたい場所になること。そのためには、若い女性が働きたくなる職場の存在が大前提となる。仕事があればいいというのではない。若い女性の職場が必要なのだ。
 第二に、子育てをする年代がUターンあるいはIターンしたくなる場所になることだ。それには子育て支援や教育の充実のほか、女性の働き口やワーキングマザーへの施策の充実が重要になる。専業主婦が少数派になった現在では、子育て世代イコール共働き世代と思ったほうがいいからだ。

 大都市や地方中核都市のベッドタウンならば、働く場所のことはあまり考えなくていい。「母になるなら、流山市」のコピーで一躍有名になった流山市は、都心で働く女性をターゲットに子育て支援、ワーキングマザー支援、教育の充実を図り、子育て世代を大幅に増加させた。ベッドタウンならではの成功モデルと言える。
 一方、ベッドタウン以外では、女性が働ける場所、自己実現できる機会の整備が不可欠になる。だから企業誘致だ、と考えがちだが、地方に誘致しやすい倉庫、工場、コールセンターばかりでは女性は集まらない。高学歴の女性向けのホワイトカラーの仕事から接客・飲食・その他サービスまで「自分らしさ」を大事にしながら、誇りを持って働ける多様な仕事が必要だ。企業ならば本社や研究所に来てもらいたいし、接客・飲食・その他サービスなら、雇われである限り低賃金になりがちだから、むしろ女性の創業や自営の支援策を充実させたほうが効果的だろう。カフェやパン屋をやりたいという夢を持つ女性は思った以上に多い。

 東京を目指す女性が多いのは、有り体に言えば、女性が地方にNOを突きつけている、ということだ。国づくりにしても地域づくりにしても、従来の施策は、男性による男性のためのものだった。女性の意見は生かされず、女性の自己実現は重視されてこなかった。面倒ばかりを押しつけ、女性に十分な敬意を払わない男性達が勝手に振る舞ってきたことへのツケが回ってきたと考えるべきなのだろう。それが端的に表れているのが地方で、女性達はそのことにNOを突きつけているのだ。
 だから、一番の地方創生策とは、男性優位の中で染みついてきた常識や慣習から自由になり、女性と共に、女性が生き生きと生きられるような地域づくりを行うことなのだと思う。地域づくりや地方創生策は、女性の目で再検討されるべき時を迎えている。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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