わが国景気は、新型コロナ流行が収束していくと想定しても、①経済活動への制約残存、②雇用所得環境の悪化、③企業の投資姿勢の慎重化、が重石になるため、Ｖ字型の力強い回復は見込めず。
経済活動の正常化は、感染者数の動向を見極めながら、段階的なものにならざるを得ず。７～９月期の個人消費は、自粛ムードの残存などを背景に、前期の落ち込みの６割程度を取り戻すにとどまる見通し。インバウンド需要も、入国規制の緩和に時間を要するため、当面、ほぼゼロの状態が持続。海外需要の回復の遅れを反映し、輸出もコロナ前を下回る水準が長引く見通し。
内外需要の減少が長期化するなか、今後は雇用調整も顕在化する見通し。失業率は、年末にかけて４％近くまで上昇。残業代や賞与の下振れなども重なり、マクロでみた雇用者報酬は一時的に▲５％程度減少し、個人消費の下押しに作用。
さらに、企業が設備投資を控える動きも景気回復の重石に。例年、上方修正が通例の新年度入り後の設備投資計画だが、今年度は異例の下方修正となり、新型コロナの影響で企業の投資姿勢が急速に慎重化している姿が鮮明。もっとも、企業の経営体質の向上と堅調なＩＣＴ投資が支えとなり、リーマン・ショック時ほどの大幅な落ち込みは回避される見通し。
以上を踏まえると、新型コロナの流行第２波を回避できたとしても、景気回復ペースは緩やかにとどまるため、2020年度の成長率は▲4.6％のマイナス成長に。経済活動が新型コロナ流行以前の水準を回復するのは、2022年以降となる見込み。
こうした経済見通しの下、政府、企業は、コロナ危機への対応のほか、コロナ後に生じる「デジタル化の加速」と「新しい生活様式の定着」という経済・社会構造の変化にも対処する必要。
新型コロナの収束後は、デジタル技術の活用度の違いで、企業間の競争力格差が広がる見込み。また、デジタル技術をわが国の中長期的な成長力強化につなげるためには、ＩＣＴ投資の量・質をともに改善することが急務。
一方、政府が呼びかける新しい生活様式の定着は、家計の消費行動など財やサービスの需要構造を変化させる可能性。これは、企業にとってビジネス拡大を図る大きなチャンスでもあり、自らのビジネスモデルを変革し、コロナ後の需要構造の変化に対応していくことが重要。
【日本経済見通し】所得減・投資慎重化で低速長引くわが国経済― デジタル化の加速と新しい生活様式への対応が課題 ―（PDF：487KB）
