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CSRを巡る動き:コロナ対策とソーシャルボンド

2020年07月01日 ESGリサーチセンター、橋爪麻紀子


 2020年5月末、新型コロナウイルスの影響による国内の緊急事態宣言が解除されました。しかし、世界を見渡せば、ブラジルやインドなど感染拡大が継続している国も多く、世界経済への影響はリーマンショックを超えるとも言われています。このような中、金融業界においてコロナ対策のための資金調達は、2020年前半の1つの大きな動きであると言えるでしょう。中小零細企業向けの無利息・無担保の緊急融資のようなものから、大企業向けのキャッシュフローを支えるための政策融資など、大小さまざまな金融の流れが国内外で発生しつつあります。その中でも今回はコロナ対策の資金調達を支えるソーシャルボンドに焦点を当てます。

 そもそもソーシャルボンドとは、社会課題の解決に資するプロジェクトの資金調達のために発行される債券のことです。現在、世界で発行されている多くのソーシャルボンドは、ICMA(国際資本市場協会:International Capital Market Association)が公表しているソーシャルボンド原則に準拠するものです。国内では、2016年にJICA(国際協力機構)の発行を皮切りに、金融機関や事業会社の発行が続いています。昨今ではその資金使途がSDGsの17の目標のいずれかに貢献していることを示す発行体が増えているのも特徴でしょう。

 2020年初頭から、コロナ対策を資金使途としたソーシャルボンドによる資金調達が市場で急速に広がりました。そうしたニーズに呼応し、ICMAはコロナ対策のためのソーシャルボンド発行のためのガイダンスや事例を取り纏め、市場動向をホームページで更新しています(注1)。そのうちの1つである、資金使途の例示としてICMAがIFC(国際金融公社)と策定したガイダンスは、業界別に以下のような資金使途や意図する効果を挙げています(著者が一部抜粋し意訳)。

■「製薬業」が発行する場合
・資金使途:新型コロナウイルス関連の試験・ワクチン開発のための研究開発、ウイルス感染の症状を軽減するための医薬品開発など
・意図する効果:ワクチンや症状を軽減する医薬品が開発された結果、人々の健康に良い結果をもたらすこと
・貢献可能なSDGs:目標3 すべての人に健康と福祉を


■「金融機関」が発行する場合
・資金使途:新型コロナウイルスによる経済低迷の影響を受けた中小企業向け融資商品
・意図する効果:不況下でも金融サービスへのアクセスを続けることで、雇止めを防ぎ、雇用継続・創出を促進させること
・貢献可能なSDGs:目標8 働きがいも経済成長も


■「製造業」が発行する場合
・資金使途:医療の安全を担保するための関連器具や衛生用品の生産、増産、又はそのための既存生産設備の改修など
・意図する効果:生産した医療関連器具や衛生用品の活用によって、ウイルス拡散防止に貢献すること
・貢献可能なSDGs:目標3 すべての人に健康と福祉を


 もちろんこれらの情報はあくまで例示であり、ここに記載されている業種や資金使途以外でもさまざまなコロナ対策のプロジェクトをソーシャルボンドで資金調達することは可能でしょう。 

 2020年3月~5月の短期間にコロナ対策に関するソーシャルボンドが国際金融機関を中心に次々に発行されました(注2)。そして、その資金ニーズに呼応した国内外の機関投資家が「コロナボンド」の購入を相次いで発表しています。今後、「withコロナ」の社会がしばらく続くならば、ソーシャルボンドを通じたコロナ対策への資金調達は増加することが考えられます。今後は、コロナウイルスがもたらす経済・社会・環境への負の影響を如何にして低減できるか、という視点がソーシャルボンド市場においてはより一層重要になってくるでしょう。


(注1) ICMA, “COVID-19 Market Updates: Sustainable finance”,
https://www.icmagroup.org/Regulatory-Policy-and-Market-Practice/covid-19-market-updates/covid-19-market-updates-sustainable-finance/

(注2) コロナ対策を資金使途に含む債券発行事例
3月20日 国際金融公社(IFC) ソーシャルボンド 30億クローナ(約320億円)
3月27日 アフリカ開発銀行(AfDB) ソーシャルボンド 30億米ドル(約3,300億円)
4月15日 国際復興開発銀行(IBRD)サステナビリティボンド80億米ドル(約8,600億円)
4月16日 国際復興開発銀行(IBRD)サステナビリティボンド30億ユーロ(約3,500億円)
5月19日 仏雇用保険管理機関(Unédic)ソーシャルボンド 40億ユーロ(約4,700億円)
5月21日 韓国産業銀行(KDB)ソーシャルボンド 1兆ウォン(約870億円)
5月26日 欧州投資銀行(EIB)サステナビリティボンド3.5 億豪ドル(約240億円)

本記事問い合わせ:橋爪麻紀子
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