2007年07月26日 |
自治体の財政力強化に向けての新たな処方箋 ~自治体版CREの提案~ |
三位一体の改革、破綻法制の検討など、自治体の財政をとりまく環境はますます厳しくなる中、自治体は財政基盤をこれまで以上に強化していく必要があり、行政改革等の従来型の手法だけでは十分な対応ができなくなることが想定されます。 新たな手法としては、市場公募債を発行したり、資産の流動化を図ったりするなど、民間市場を効果的に活用した資金調達や資産マネジメントが求められますが、現状では民間資産に比べて市場の活用が必ずしも十分ではなく、自治体の対応の遅れが懸念されます。 そこで、民間市場を活用したこれらの新たな手法に対する自治体の認識や今後の取り組み状況を調査するとともに、今後の対策のあり方を提言しました。 | ||||
【調査結果概要】 | ||||
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ほとんどの自治体が、今後は「財政力の格差は拡大する」と認識しており、「新たな資金調達手法の導入や保有資産の有効活用」が「必要」と回答しているが、具体的な対策は遅れており、9割近い自治体が地方債の「格付」への対策を立てていない。また、すべての自治体でバランスシートは作成しているものの、「負債の圧縮」や「遊休資産 の処分」の判断にはほとんど活用されていない現状が明らかとなった。 また、資産マネジメントについては、6割以上が「廃止された施設や低未利用地の荒廃」を優先度の高い課題と認識しているが、今後5年以内の対策は、「特になし」が2~3割の回答を占めるなど、行政財産を含めた資産活用について長期的な視点から全庁的に取り組みを行っている自治体は極めて少ない。さらに、今後、戦略的な資産マネジメントを実施する意向を見せているのは「土地〔普通財産〕」で2割程度であった。 | ||||
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【提言(要約)】 | ||||
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1.自治体の財務戦略への提言 新たな資金調達手法の導入については、市場公募債の発行など具体的な対策を実施もしくは検討している自治体と全く対策を考えていない自治体とに二極化が進んでいる。自治体の今後の資金調達においては、国の信用補完なしに、民間市場からの調達を有利に行う能力をいかに高めるかが重要な戦略となることから、資金調達手法の多様化を進め、民間市場に対して将来にわたる信用力や成長力を自治体が自らアピールしていくことが求められる。 また、地方分権の進展や起債の自由化等によって、自治体のバランスシートが市場での資金調達力に影響を与える可能性が高まることが予想されることから、バランスシートを良好な状態に保つための対策を実施することが必要となる。このためには、民間企業と同様に負債を圧縮し、非効率的な資産をバランスシートから外すこと(=オフバランス)を自治体においても積極的に実施していくことが求められる。 | ||||
2.自治体における資産マネジメントへの提言 自治体の財務状況等について市場への説明力を強化するためには、所有している資産を総合的に把握し、中長期的な視点で資産マネジメントを行うための戦略づくりが必要である。そのためには、PPP(Public Private Partnership:官民パートナーシップ)の視点が不可欠であり、資産のデューデリジェンス (価値等の評価)や活用方策の検討を進める上では、外部の専門機関と連携し、民間のノウハウを活用していくことが必要である。 また、資産をより効果的に活用するための「自治体版CRE(Corporate Real Estate)」すなわち「PRE(Public Real Estate)戦略」を導入するべきである。CREとは、企業が所有、賃貸、リースなどの種類を問わず事業を継続するために使用する全ての不動産を含む概念であり、企業の資産回転効率や投資の効率を最大化するために、不動産の保有形態や管理手法を見直し、企業価値の向上を図る戦略である。たとえば、所有している不動産について、その利用状況や維持管理コスト、将来的な収益性の観点から評価を行い、賃貸と売却のどちらが企業にとって有利であるかを選択することにより、資産回転効率を向上させるなどが挙げられる。 今後は、資産(アセット)に対して、最大限の成果(リターン)を住民に還元していく、いわゆるROA (Return on Assets)の観点から、賃貸借や証券化等の手法を含めて、柔軟な発想で自治体の資産のマネジメントを行う必要がある。 | ||||
≪ 目 次 ≫ | ||||
Ⅰ 調査結果 |