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レーザーによるスペースデブリ/宇宙ゴミ除去の概観と宇宙産業に与える影響

2020年06月16日 通信メディア・ハイテク戦略グループ 片桐佑介


要旨
●民間企業のスカパーJSATが日本の研究機関・学術機関と連携して、世界初となるレーザーを使ったスペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去する衛星の設計・開発に着手することを発表した。
●この技術が実現すれば、スペースデブリ除去のみならず軌道上サービスへの応用が可能であり、宇宙産業に大きな影響を与えることになるだろう


はじめに
 2020年6月、スカパーJSAT株式会社(以下、スカパーJSAT)は、国立研究開発法人理化学研究所、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構、国立大学法人東海国立大学機構名古屋大学、国立大学法人九州大学と連携して、世界初となるレーザーを使ったスペースデブリ(宇宙ゴミ)を除去する衛星の設計・開発に着手することを発表し、2026年のサービス提供を目指すとのことを明らかにした(※1)
 スペースデブリとは宇宙空間を高速で周回する機能していない人工物体(衛星やロケットの部品等)であり、運用中の衛星に衝突した場合には機能停止になる可能性もある。スペースデブリの数は年々増加しており、持続可能な宇宙開発を行う上での大きな問題となっている(現在米国に監視されているものだけでも2万個以上あるとされている)。このような背景のもと、スペースデブリ除去は急務となっており、スペースデブリ問題を解決のため世界中で研究が行われている。スペースデブリ問題についての詳細は以前の記事を参照されたい(※2)
 本稿では、今回スカパーJSATらが発表した「レーザーによるスペースデブリ除去」がどのようなもので、どのようなメリット・課題があるかを確認した上で、この技術が秘める可能性について考えたい。

スペースデブリ除去手法の整理
 レーザーによるスペースデブリ除去について考える前に、スペースデブリの除去手法を簡単に整理する(図表1)
(※3)
 スペースデブリ除去の手法には能動的デブリ除去(ADR:Active Debris Removal)と受動的デブリ除去(Passive Debris Removal)があり、現存するデブリに素早く対処していくにはADRが必要となる。ADRのなかでも現在主流の手法は、専用衛星でターゲットデブリに接近、機械的に把持するなどして、そのまま大気圏に突入させるというものである。この「接近型」の手法は比較的大型(数十cm以上)のデブリに対して有効であり、日本にR&D拠点をもつアストロスケール社が実現に向けて世界的に見て一歩リードしている状況である。一方で「非接近型」のものとしてはレーザーを使った手法が古くから研究されており、同手法のサービス化を目指しているのが今回のスカパーJSATらの取り組みである。



レーザーによるスペースデブリ除去
 レーザーによるスペースデブリ除去(以下、レーザー方式)の概念図は図表2の通りで、除去には以下に示す①~③のステップがある。

①ターゲットデブリを捕捉
②デブリの進行方向とは逆方向からパルスレーザーを照射
③デブリ表面上で発生したレーザーアブレーションの反力によってデブリの周回速度が減少、軌道遷移、最終的に大気圏に突入して燃え尽きる
※ターゲットが回転している場合は回転を止める必要がある

 三つ目のステップに登場する「レーザーアブレーション」とは、高強度レーザーを物体に照射した際に、表面物質がプラズマ化して高速で放出される現象であり、この際にアブレーション表面に対して垂直方向に反力が発生する(作用・反作用のイメージ)。このようにレーザーアブレーションを利用すれば、遠隔の物体に対して力を付与し、運動を制御することが可能となる。これをスペースデブリ除去に応用したものが本手法となっている。
 ここで蛇足ではあるが、一点補足をしておきたい。「レーザーでデブリを除去する」とすると、一般の人々の中には、レーザーを使ってデブリを木端微塵に破壊する「スターウォーズのデス・スター」的イメージをもたれる方もいるかもしれないが、実際にはそうではない。本手法はターゲット表面が少し削られるくらいのイメージである。
 次にレーザー方式によるメリットを確認したい。同手法のメリットについてはいくつか考えられるが、スカパーJSATの発表によると「接触しないため安全性が高い」、「スペースデブリ自身が燃料となり、移動させる燃料が不要なため経済性が高い」といった点が強調されている。また、これらに加えて「小型デブリにも対応可能である」という点も大きなメリットといえるだろう。レーザー方式の場合、理論的にはレーザー径の中にターゲットが入れば小型デブリでも除去することが可能なのである。大型のものと比較すれば小型デブリによる宇宙機へのダメージは小さいかもしれないが、現存するデブリの大部分は小型のものであることを考慮すると、小型デブリへの対処も重要である。今回スカパーJSATが発表したイメージ画像から判断すると、大型デブリがターゲットとされているようだが、将来的には小型のものもターゲットにするのではないかと予想される。
 一方でレーザー方式の実現のためには解決すべき技術的課題がある。主要な課題としては「宇宙空間に打ち上げ可能な高強度レーザーの開発」があり、打ち上げ時の振動への対応や衛星に搭載可能な体積・質量や電源の制約など技術的に解決しなければならない点は多い。また、小型デブリの除去を視野に入れた場合、高速で移動する非協力ターゲットの検出からレーザー照射までを精度よくかつ素早く行う技術も必要となってくる。これらの技術的課題に対しては、理化学研究所をはじめとして世界中で研究がなされている。



レーザー方式除去技術の宇宙産業に与える影響
 ここではレーザー方式のデブリ除去が実用化された場合の宇宙産業への影響を考えてみたい。
 まず、デブリ化防止という視点で、「レーザーによるデブリ化防止を前提とした衛星開発」が行われるようになる可能性がある。通常、衛星側にはデブリ化防止のための何らかの仕組みを組み込む必要があるが、レーザー方式での除去が十分にコスト優位性を持つならば同手法が主流となり得るだろう。こうなった場合、照射レーザーと相性が良く(アブレーションにより発生する力が大きい(※4))、宇宙空間でも使えるような素材開発のニーズが高まるかもしれない。
 さらに視野を広げると、「レーザーが衛星のスラスター(推進機、エンジン)の機能を一部代替・補完する」可能性もある。レーザー方式の技術、つまり「軌道上で遠隔の物体の運動を制御する技術」の実現は、運用中の衛星からすると「軌道上で外部にエネルギー源(燃料)を持つことが可能になる」ということと等価であるといえる。このように考えると、同技術は従来衛星に搭載されていた軌道維持・変更のためのスラスターを代替する可能性があると示唆される。レーザーによるスラスターの代替が進めば、衛星に搭載可能な燃料による制約から解放されことになり衛星の長寿命化につながるほか、衛星自体の設計簡素化・小型化・低コスト化にも大きく寄与することになるだろう。
 以上のように、レーザー方式の技術の実現により、衛星の製造から運用終了までのライフサイクル全体にわたり大きな影響を与えることが示唆され、衛星のサプライサイドでは素材系企業などの新規参入の可能性、デマンドサイドでは低コスト化による宇宙利用の裾野の拡がりが期待できる。

おわりに
 本稿では、スペースデブリ除去の手法の一つであるレーザーによる除去手法について紹介した。同手法は、デブリ除去の一般的な課題に加え、レーザー方式ならではの課題も存在するが、実現した場合の宇宙産業に与える影響や社会的意義は非常に大きい。今回のスカパーJSATらの取り組みを通して、世界に先駆けて同手法が実現されることを期待したい。

※1 スカパーJSATホールディングス ニュースリリース「世界初、宇宙ごみをレーザーで除去する衛星を設計・開発~宇宙のSDGs~ 持続可能な宇宙環境の維持をめざして」(2020年)
※2 日本総研オピニオン「持続可能な宇宙開発を阻む宇宙ゴミ問題」(2019年)
※3 理化学研究所プレスリリース「高強度レーザーによるスペースデブリ除去技術」(2015年)
※4 レーザーアブレーションにより発生する力は、照射レーザーの条件(エネルギー、波長、パルス幅等)と被照射物質の条件(材質、表面形状等)、雰囲気圧力などによって決定されることが知られている。

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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